深刻に悩んでいるみたいだから、声をかけるのはやめて、バスに乗ることにした。
この時間のバスは空いてるから、座って帰れそう。
ステップを上がったら、イサト君が一番後ろの席を占領して単語帳を開いてるのが見えた。
周りを見回してから、隣に座る。
「おっ・・・」
私に気付いてぱっと嬉しそうな顔をしたイサト君だったけど、すぐに周りを見回す。
うちの学校の生徒が居ないことを確認してから、イサト君は眉根にしわを寄せて座席にもたれた。
「チクショー、なんで俺らがコソコソしなきゃなんねぇんだよ。」
せわしなく起き上がって爪を噛む。
体育祭の出来事があってから、私とイサト君は学校中の注目の的になってしまった。
代休明けにイサト君が『花梨に謝れ!』って騒ぎの首謀者に殴りかかったことが、美談となって学校中を駆け巡り、余計に噂をでかくした。
渡り廊下ですれ違うだけでも皆が好奇の視線で見るので、あれから学校内では挨拶もしてない。
「まあ、ノセられてノっちゃった私達も悪いけどね。」
そう言ったら、イサト君がすごい勢いでこっちを向いた。
「お前、まさか、俺がノセられてウソ言ったって思ってねぇよな?」
ちょ、ちょっと、なんて答えればいいのよ・・・やだ・・・顔が熱くなってきちゃった・・・
辛うじて首だけ振ると、イサト君は安心したように窓の外を見た。
イサト君の頬のあたりが少しずつ赤くなる。
黙ってそれを見ていたら、窓の外の何かに気付いたイサト君は、急に立ち上がってカバンを肩に担ぐ。
「じゃあな。」
そう言って前の席に行ってしまった。
一番前の席にドカッと座ると単語帳を開く。
なんだろう、と思っていたら、バスの乗り口が騒がしくなって、うちの高校の女の子が何人か乗り込んできた。
真ん中あたりの席に座ってから、イサト君の後姿と私を見比べて何か囁きあってる。
女の子の一人がエーッウソー?!と大声を上げて、隣の子が慌ててシーッとか言いながらその子の頭を叩いた。
やんなっちゃうなあ、もう。