再び店から出てきたその人は、やっぱり頼忠さんだった。
今度は大きなダンボールを抱えると、ちょっと重いみたいで小走りになって店に入っていく。
剣道の師匠に紹介された企業ってもしかして、あの有名スポーツメーカー?!
野球選手とかオリンピック選手とかが、あのエンブレムの入ったジャージ着まくってるよ?
またお母さんが聞いたら、『素敵!将来有望だわ〜!』とか喜びそうだなあ。
ペラペラした紙を持って店から出てきた頼忠さんは、私に気付いて目を見開いた。
「花梨さん・・・」
「こんにちは、頼忠さん。」
こうして正面から見ると、ネクタイをした頼忠さんってばすごくカッコイイ。
ワイシャツの腕まくりも働き者って感じですごく似合う。
なんで、こんなカッコイイ人が未だに、その・・・童貞なんだろ。
そう思っているうちに、頼忠さんはみるみる赤くなってしまった。
「す、すみません・・・こんな場所でお会いできるとは思って居なかったもので・・・」
そう言って右手で口許を覆うと、黙り込む。
前言撤回。
オトナな私はそんな頼忠さんに助け舟を出してあげるのだ。
「お仕事ですか?」
頼忠さんは気を取り直したように頷いた。
「はい。今日は納品日なのです。」
「ノウヒン?」
「注文を受けた品をお届けするのですよ。」
「へえ〜。頑張って下さいね。」
「はい。」
そう言うと、頼忠さんは運転席に回って車に乗り込む。
私は車の中でシートベルトを着ける頼忠さんに聞こえるように、助手席側の窓から声を張り上げた。
「いってらっしゃーい!」
頼忠さんは一瞬驚いたようにこっちを見たけど、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
今度は私が赤くなる番。
だって、たまにしか見れない頼忠さんの笑顔は貴重なのよ〜!
ブンブンと手を振ると、頼忠さんは小さくクラクションを鳴らして車を出した。