やっぱり、お喋りは2人より3人。
私は、出迎えてくれた顔見知りのウエイトレスさんにメニューだけもらうと、席の案内を断って千歳と一緒に幸鷹さんの座っている席まで行った。
「幸鷹さん、こんにちは。」
「おや、花梨さん、こんにちは。」
「千歳、バンドでお世話になってる幸鷹さん。」
「初めまして、平千歳と申します。」
千歳が上品な微笑を浮かべると、幸鷹さんもそれに劣らない上品さで微笑み返す。
「初めまして。藤原幸鷹です。」
「幸鷹さんは、何をしていたんですか?」
「学校の課題ですよ。自分の部屋に長く居ると集中力が切れるので、たまにこうして場所を変えるのです。」
「へえ。」
「あの、お邪魔でなければご一緒してもよろしいかしら?」
そうそう、千歳、私もそう思ってたんだよ。
でも、千歳がこんなに積極的に男の人に話しかけるなんて珍しいな。
「どうぞ。私も一息入れようと思っていたところです。」
幸鷹さんがテーブルの上に広げられた本をノートの上に重ねて、空になったコーヒーカップを通路側に寄せる。
私達は幸鷹さんの向かいに肩を並べて座ると、ウエイトレスさんを呼んでパフェを注文した。
「幸鷹様は、どちらの学校に通ってらっしゃるんですか?」
千歳が目をキラキラさせて幸鷹さんに質問する。
「近くの神楽国立大学に今年からロースクールが新設されましたので、そこに通っています。」
「ごめんなさい。ロースクールを存じませんの。」
「弁護士や検察官、裁判官を志す者が司法試験に合格するための予備校のようなものです。」
「そうでしたか・・・幸鷹様はどちらの方面を志してらっしゃるんですか?」
「もともとは理系でしたので、その知識を活用できる検察官になれればと思っています。」
「まあ・・・」
千歳がうっとりと幸鷹さんを見た。
私はまったく話に入る余地がない感じ。
幸鷹さんを見ると、なんだか居心地悪そうにしている。
そうだ、幸鷹さん、羨望の眼差しってやつ、苦手なんだよね。
悪いことしちゃったなあ。
そう思っていたら、パフェが2つ運ばれてきた。
幸鷹さんがチャンスとばかりにノートや本をクリアーケースにしまう。
「あの、そろそろ私は帰ります。」
「あら、残念。」
千歳は本当にがっかりした顔をしてる。
「ここは奢りますよ。ごゆっくり。」
「あ・・・すみません、幸鷹さん。」
お礼を言う隙も与えずに、幸鷹さんは伝票をつかむとそそくさとレジに行ってしまった。
「素敵な方ねえ、花梨。」
千歳は、パフェのスプーンを片手に、いつまでもその姿を見送っている。
なんか複雑・・・。