ステージの下で飛び入り参加受付の列に並んでいたら、急に肩をつかまれた。
「ここで何をしている?」
「アクラム!」
珍しくラフな格好のアクラムが、怖い顔で私を見下ろしていた。
「何って・・・飛び入り参加をしようと思ったんです・・・」
何だろう、私、何か悪いことしちゃった?
「何故そう思った?」
アクラムは怖い顔のままだ。
「何故って・・・ステージで歌うのは楽しいから・・・」
私がしょんぼりと言うと、アクラムは呆れたようなため息を吐いた。
「わかっておらぬのか・・・」
「え・・・?」
首を傾げたら、アクラムは私の顎をつかんで上向かせた。
「お前の歌は商品価値を持っているのだぞ。こんな場所で金も払わない者に聴かせるのはよせ。」
綺麗な青い瞳にじっと見つめられて、私は息をするのも忘れそう。
「は・・・はい。」
やっとのことで返事をすると、アクラムが私の顎から手を離した。
「アクラム様・・・?」
少し離れたところで、シリンが呼んでいる。
アクラムはそちらを振り返ってから、念を押すように言った。
「花梨、お前はもう、私のものだ。私の許可なくして歌を歌ってはならない。良いな。」
返事も聞かずに背中を向けて、シリンの方へ歩いていく。
私のもの・・・って・・・どういう意味?
私は突っ立ったまま、シリンがアクラムに肩を寄せて話すのを見ていた。
アクラムが頷いて、ステージの下の参加者を見る。
ああ、きっと、新しくプロデュースしようと思ってる子をお忍びで見に来たんだ。
ねえ、アクラム。
私はそういう歌手の一人なんでしょう?
だったら、どうして『私のものだ』なんて言うの?
切ない想いを抱えながら、私は踵を返した。