私が男の子に駆け寄るのと同時に、イサト君も、やっべー、と言いながら駆け寄ってくる。
幼稚園生ぐらいの男の子はしばらく呆然と私達二人の顔を見比べて、それから急に泣き出した。
「ママー!」
わわっ、どこか怪我をしちゃったかな?
「ごめんね、痛かった?」
そう言ってなぐさめても、ママ、ママ、と言って泣いている。
私が困っていると、イサト君は急に男の子の前にしゃがんで優しい声で言った。
「俺たち男は強ぇから痛くねぇよな。いま、お前の母ちゃん呼んできてやっから。どこに居るんだ?」
すると、男の子は納得したように泣くのをやめて、しゃくり上げながら海の家を指差した。
「・・・あそこ・・・」
「よし、分かった!」
イサト君は満面の笑みで頷いてから立ち上がると、一目散に走り出す。
同じ方向に、怪我をしたらしく足を引きずりながら救護室へ向かう彰紋君が見えた。
彰紋君も心配だけど、今はここから離れられない。
視線を戻すと、男の子は警戒するように上目遣いで私を見た。
そっか、痛いんじゃなくて、知らない人にいきなり話しかけられて驚いちゃったんだね。
やっぱりイサト君はすごい。
男の子の気持ちを、素早く読み取って行動できちゃうんだ。
私もイサト君を見習って、男の子の前に座り込む。
「いまお兄ちゃんがママを呼びに行ってるからね。何して遊んでるの?」
安心させて話を逸らすと、男の子は照れたように俯いて、トンネル、と言った。
低い砂山の裾が、小さく掘ってある。
「ほんとだ!わあ、すごいね!」
大げさに言うと、男の子は両手にクマデとシャベルを持ったまま嬉しそうに立ち上がった。
それから、歩いてきてストンと私の膝の上に座り、モジモジしている。
かっ、可愛い〜!
私がホンワカしていると、イサト君がお母さんらしき人を連れてきた。
膝の上の男の子がママ!と立ち上がって抱き付く。
イサト君と私は、二人に頭を下げながらその場を離れた。
と、ふいにイサト君が水の中へ私を引っ張る。
「あんな子供を膝に乗せてデレデレしてんなよ。汚れてるぞ。」
そう言って、イサト君は不機嫌そうに私の膝へ水をかけた。
あれ、もしかして・・・
「それって、あんな子供にヤキモチ妬いてるってこと?」
言いながら、ふざけてイサト君に水をかける。
「なっ・・・」
イサト君はギクッとしてから怒った顔になって、私にお返しをしようと波間に両手を突っ込んだ。
慌てて逃げる。
「待ちやがれ、花梨!」
後ろでイサト君の声がして、すぐに私はつかまってしまった。
一瞬だけ、ぎゅっ、と背後から抱き締められる。
ドキッとして固まると、イサト君はすぐに離れて、そっぽを向きながら言った。
「あんな子供にヤキモチ妬くほどお前が好きなんだよ、悪かったな!」




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