space-timeのメンバーの演奏で歌ってこそ、楽しいんだもんね。
どんな人達が歌うのかなあ、と見ていたら、スタッフがマイクスタンドを設置し始めた。
あれは・・・和仁さん!
海に行くことになった時、一緒に行こうって誘ったんだけど、仕事だからって断られちゃったんだ。
仕事って、これだったの?
私は嬉しくなってステージ脇へ行くと、PA席に居た時朝さんと、そこに戻ってきた和仁さんに声をかけた。
「和仁さん、時朝さん、こんにちは!」
「花梨!」
「花梨さん!」
二人とも目を丸くしてから、笑顔を返してくれる。
和仁さんが少し顔を赤くして時朝さんに何か一言言うと、時朝さんは微笑んで頷いた。
すぐに和仁さんはステージ脇から降りてきて、はにかんだ顔で言う。
「同じ海水浴場だったとはな。」
「偶然ですね。」
こんな場所で偶然会うだけでも、すごく嬉しい。
だって、和仁さんがお店の手伝いで忙しいから、私たちはデートらしいデートもあまりできない。
そう思いながら見ると、和仁さんは私の顔じゃなくて、それより下の方をジッと見ていた。
それから急にハッと気付いて、慌ててそっぽを向く。
えっ・・・和仁さん、まさか・・・
私が自分の水着姿を見下ろしていると、和仁さんが、そっぽを向いたまま言った。
「似合っているぞ。」
「へ?」
よく意味が分からなくて聞き返す。
和仁さんは赤くなって私を叱りつけた。
「お前にはその水着が似合うと言っているのだ!」
いつものこと。
怒ってるように見えるけど、和仁さんはすごく嬉しい言葉をくれるんだ。
「あ・・・ありがとうございます。」
そう言うと、和仁さんは満足したような声音で話し始めた。
私がちゃんと和仁さんの言葉を理解すれば、和仁さんはすぐに普通に戻る。
「花梨、来週の木曜は空いているか。」
「はい。」
夏休みだし、私は和仁さんと違って毎日ヒマしてる。
和仁さんはやはり顔を赤くして、Tシャツの首のところを指先でつまんでパタパタと自分に風を送りながら言った。
「それなら、また二人でここに来よう。」
わわっ、和仁さんがデートに誘ってくれるなんて、珍しい!
「はい!」
私が大きく頷くと、和仁さんは照れた顔で手を軽く挙げてステージの方へ戻っていく。
手を振りながら見送っていると、和仁さんは顔だけ振り返って、不敵な笑みを浮かべた。
「お前を独り占めできると思えば、木曜にしか休みが取れないというのも悪くないな。」





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