私は財布を持って立ち上がった幸鷹さんについて行くことにした。
いくつかのビーチパラソルを抜けると、ふいに幸鷹さんの手が私の手を握る。
ドキッとして幸鷹さんを見ると、こうするのが当然という顔で前を見ていた。
うん、まあ、もちろん、こうするのが当然の関係なんだけど。
「花梨さん、かき氷はいかがですか?」
「わ、食べたいです!」
言うと、幸鷹さんはにっこり微笑んで、堤防を越える階段を登ろうとした。
もしかして、道路沿いのコンビニまで行くつもり?
「幸鷹さん、かき氷なら海の家で買えますよ。」
「海の家、ですか?」
そっか、あんまり海で遊ばないから、知らないんだ。
「あっちです。」
キョトンとしている幸鷹さんの手を、今度は私が引いて誘導する。
何でも知ってる幸鷹さんに何かを教えたりするチャンスは少ないから、張り切っちゃう。
海の家では、昔ながらのかき氷機でかき氷を作っていた。
シロップは自由に選べる、お祭りの屋台みたいな感じ。
「私はコーラにします。幸鷹さんは?」
ポカンとしていた幸鷹さんは、きっと、こういうかき氷があることも知らなかったのかも。
色とりどりのシロップを見比べてから、困ったように言った。
「ブルー、ハワイ・・・?」
あいよっ、とオジサンが手際よくシロップをかける。
そんな幸鷹さんも、かき氷を手にした途端、また先に立って私の手を握った。
私が誘導する時間は終わりで、ちょっと残念。
幸鷹さんは、もと居たビーチパラソルの方じゃなく、海の家のそばの堤防へ私を連れて行くと、繋いでいた手を離して堤防に寄り掛かった。
「溶けてしまうので、ここで食べて行きませんか。」
確かに、すごく暑いから、かき氷が溶けかかってる。
「そうですね。」
私は早速持っていたかき氷を食べ始めた。
喉が渇いてたから、とっても美味しい。
幸鷹さんも一口食べて、ブルーハワイ味に納得したように頷いている。
もう一口。
あっ、頭が!
「どうかしましたか?」
横で幸鷹さんの慌てた声がする。
「あの、頭がキーンと・・・!」
「ああ・・・」
こっちは必死なのに、幸鷹さんは少し笑っているような声で続けた。
「・・・花梨さん、治し方を教えてあげましょうか。」
えっ、幸鷹さん、そんなことまで知ってるの?!
「は、はい、お願いしますぅ・・・!」
目をつぶったまま幸鷹さんの方を向いたら、冷たくて柔らかいものが額に触れた。
さらっ、とこめかみに触れた髪の感触は、よく知ってる、幸鷹さんの・・・
「なっ・・・!」
ビックリして目を見開くと、幸鷹さんが悪戯っぽい顔で離れるところだった。
「治ったでしょう?」
言って、クスクスと笑っている。
た、確かに、治ったけど、治ったけど・・・!