「イヤ!」
「なんでだよ?ぜんぜん怖くねぇって。」
イサト君が目を丸くしている。
私はジェットコースター系が全然ダメ。
初めて乗ったとき、すごく怖くて、もう一生乗るもんかと思った。
「ゼッタイヤダ!待ってるから一人で行って来ていいよ。」
「マジで?・・・せっかく一番に乗せてやろうと思ったのによぉ・・・」
イサト君は開園と同時に、ここで待ってろよ、と言って全速力で走って行ってしまった。
息を切らせて戻ってきたイサト君が嬉しそうに見せてくれたのは、ビッグサンダーマウンテンのファストパスだった。
イサト君はちょっと怒った顔をしている。
そりゃあ、そうだよね。
私はイサト君の気持ちを無駄にしたくなかったから、怖いのを我慢して乗ることにした。
「・・・わかった。乗る。」
「よし。」
イサト君の怒った顔が、くるっと笑顔になる。
嬉しそうなイサト君に連れられて、私はジェットコースターに乗った。
そして・・・降りた途端、涙が止まらなくなってしまった。
思ったよりも怖くなかったんだけど、緊張がどっと緩んで、涙腺がおかしくなっちゃったみたい。
いきなり泣き出した私に、慌てたのはイサト君。
「やっべぇ・・・」
そんな事を言いながら、私の手を引いて建物から出る。
外に出たところで立ち止まると、心配そうに私を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
なんでもないの。
涙が止まらないだけで。
でも、喋れなくて、私は俯いてウンウンと頷くしかできない。
「俺が泣かせたみてぇじゃねぇかよ・・・」
頭の上からイサト君の困ったような声が聞こえてくる。
周りの人にジロジロ見られちゃってるんだろうなあ。
ごめんね。
再び頭の上からイサト君の声が降ってきた。
「俺が泣かせたようなもんか・・・」
私の好きな優しい声。
そう思っていたら、頭にイサト君の掌が触れた。
何度も優しく撫でられて、とても気持ちいい。
固く縮こまっていた心がほぐれて、涙が止まった。
「ありがとう。イサト君にそうしてもらうと、涙が止まるみたい。」
イサト君は、そっぽを向くと、口を尖らせてボソボソと言った。
「お前・・・それって学童のガキらと一緒だぜ。」
「何それ?」
私がむくれると、イサト君はぷっと吹き出した。
「そういうとこも、ガキみてぇ。」
そう言うと、いきなり私の手を引っぱって歩き出した。
「・・・お子様が迷子になるといけねぇからな。」
前を向いたまま言い放つイサト君の耳が赤い。
理由をつけなきゃ手を繋げないイサト君の方がお子様だと思うなあ・・・