ここは、今年できたばかりの新しいアトラクション。
初めてだからワクワクしちゃう。
幸鷹さんは、隣でチョー真面目にバズの説明を聞いている。
周りを見回しても、バズの説明を真面目に聞いている大人なんてほとんど居ない。
幸鷹さんに視線を戻すと、私に見られてる事も気付かないで、周りの子供たちと一緒に相槌を打ったりしてる。
可笑しいけど、そんな子供みたいなところも好きだからいいの。
「なるほど・・・シューティングゲームの要領で遊ぶのですね・・・」
子供みたいだった幸鷹さんが、口を開いた途端に大人に戻る。
そう、そんな瞬間も、好き。
乗り物が動き出して二人きりになると、幸鷹さんが突然言った。
「花梨さん、もし高得点を取ったら、ご褒美をくださいませんか?」
「は、はい、いいですよ?」
でも、初めて乗るアトラクションで、高得点なんか取れるのかな?
「では、貴女からの大人のキスを・・・」
幸鷹さんがそう言った途端、敵が現れた。
幸鷹さんが光線銃で攻撃を始めたけど、私はそれどころじゃなかった。
わ、私から大人のキス?!
敵を迎え撃ちながら、私は恥ずかしさでいっぱいになる。
説明をちゃんと聞いていた幸鷹さんは、乗り物を回転させながら、確実に高得点の的を撃ち抜いている。
真剣な瞳で的を追う幸鷹さんの横顔がとってもカッコよくて、私は思わず見とれてしまった。
やっぱり幸鷹さんは、そんな私に気付かない。
幸鷹さんの集中力が、ここでもしっかり活かされてるみたい。
・・・なんか・・・課題やってる時よりも集中してるみたいなんですけど・・・そんなに大人のキスして欲しいですか?!
結局、幸鷹さんは、ほとんど一人で敵をなぎ倒し、アストロヒーローという最高の称号を手にした。
「花梨さん、約束を果たしていただけますか?」
建物の外に出ると、幸鷹さんがめちゃめちゃ嬉しそうに私の頬に触れる。
「で、でも、人がいっぱい居るし・・・」
「そうですね・・・人の少ない場所を探すのも難しいでしょうね・・・」
幸鷹さんが周りを見回して、がっかりした顔をした。
あんなに一生懸命がんばったのにかわいそうだな、と思ったので、私はひとつ提案する事にした。
「あの、幸鷹さんのお部屋なら誰にも見られないし・・・今度、また遊びに行った時にしてもいいですか?」
「え・・・」
幸鷹さんがちょっと困った顔をした。
「あの、嫌ならいいです・・・別の場所でも・・・」
幸鷹さんは、はっとすると、いつもの微笑を浮かべて言った。
「いえ、大丈夫ですよ。私の理性の問題ですから。」
「理性の問題?どういう意味ですか?」
「・・・多分、それを説明したら、貴女は私の部屋が怖くなると思います。」
幸鷹さんが自嘲的な顔でそっと私の髪を撫でる。
・・・あの部屋が怖くなるとは思えないけど・・・幸鷹さん、説明したくなさそう・・・
「じゃあ、聞くのはやめておきます。」
いろいろビミョーなこと聞いて、困らせちゃった事もあったしね。
「はい。それが賢明だと思いますよ。」
幸鷹さんはホッとした顔で微笑んだ。




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