「やれやれ、すごい人だね。」
翡翠さんはパレードのルートに沿って出来ている人垣にうんざりした声を出した。
私の背丈でちゃんと見れるような場所は、もうなさそう。
「いい場所があるけど、少し遠くなる。それでも良いかい?」
「はい!」
翡翠さんのエスコートに、期待外れな事はない。
ついて行くと、シンデレラ城の前にある、少し高くなっている場所で、翡翠さんは立ち止まった。
周りでは、アベックが等間隔を空けていちゃいちゃしている。
すごく恥ずかしい場所なんですけど・・・もしかして、わざと?
ちょっとムッとして翡翠さんを見上げたら、翡翠さんは手すりに凭れてなんだか疲れた顔をしていた。
「翡翠さん、疲れましたか?」
「あ・・・すまないね。姫君とのデートもままならない仕事なんて辞めたいと思っていたのだよ。」
私はびっくりした。
今日、お休みを取るために、翡翠さんはずいぶんシフトに困ったみたいだった。
確かに日曜日にあまり会えないのは残念だけど、仕事を辞めて欲しいとまでは思わない。
「だ、だめですよ!そんなの!」
翡翠さんはふっと微笑んで首を傾げる。
「どうしてかな?」
確かに、どうしてって言われると・・・はっきり理由があるわけじゃない。
「えっと・・・私のせいで翡翠さんが仕事を辞めるなんて嫌だし・・・その・・・」
「ふうん?」
翡翠さんが面白そうに私の顔を覗き込む。
ひゃあ・・・そんなに顔を近づけられると心臓が・・・
「・・・あっ、あのっ、お仕事してる翡翠さんカッコイイからっ・・・」
翡翠さんは、パニックになった私に吹き出すと、笑いながら言った。
「そうか・・・姫君はそんないやらしい目で仕事中の私を見てくれていたのか・・・嬉しいね。」
「い、いやらしい?!」
「そうだよ。」
否定したいけど、翡翠さんの言う通りかもしれないから何も言えない・・・
黙っていたら、翡翠さんが私の耳もとで囁いた。
「では、もう少しこの仕事を続ける事にするよ・・・私も姫君の制服姿をいやらしい目で見られなくなるのは惜しい・・・」
私が腰から砕けそうになっていると、音楽が鳴り響いて、パレードが始まった。
翡翠さんの言葉どおり、少し遠いけど、シンデレラ城をぐるりと回るパレードの全体が見渡せて、とってもいい場所。
「わあっ、キレイ!」
私が腰砕けから立ち直って歓声を上げた。
翡翠さんは私があっさり腰砕けから立ち直ったのが不満だったみたい。
「姫君の方がずっと綺麗だよ。」
また耳もとで囁いて、ほっぺにチュッてした。
「ひ、翡翠さん・・・」
私が真っ赤になって翡翠さんの方を向くと、翡翠さんはシメタ、という表情をして、素早く私の唇をキスで塞いでしまった。
それからは、ほとんど覚えてない。
翡翠さんが嬉しそうに唇を離した時には、パレードは通り過ぎていて、私は立てなくなっていた。
もう、ファーストキスだったのに、そんなの、ひどいよ・・・