いかだに乗った人だけが行けるトムソーヤ島は、人があまり居なくて、散策するととても気持ちいい。
でも、派手なアトラクションとかがないから、いつも後回しにしちゃう。
結局、初めて行って以来、ずっと行ってない。
彰紋君がゆっくり歩きませんか、と言うので、新発売のカレーポップコーンを買って、いかだに乗った。
湖の上を吹き抜ける風が、けっこう強い。
「ディズニーランドに来てゆっくり歩こうなんて、彰紋君って余裕あるよね。」
彰紋君がキョトンとした。
「そうですか?」
「だって、私なんか、アトラクション回りきれなくなっちゃうって思っちゃう。」
そう言うと、彰紋君は風に吹かれながらくすくすと笑って言った。
「また来ましょう。花梨さんが満足するまで何度でも。」
「うん。」
本当なら、お金がかかるから何度も来れないよ、と答えるのだけど、今日の私にそんなセリフを言う資格はない。
電車も、パスポートも、食事も、彰紋君が全部払ってくれた。
アルバイト禁止の分、お小遣いは多めにもらえるらしいのだけど、部活が忙しくて使い道がないんだって。
さっきの言葉は、多分、何度でも払ってくれるつもりで言った言葉なのだと思う。
お金の余裕が心の余裕に繋がるのかなあ、なんて、彰紋君が聞いたら嫌がりそうな事を考えながら、カレーポップコーンの容器を開けた。
「はい。」
容器を差し出すと、彰紋君は微笑んでポップコーンを口に放り込む。
「ん、美味しいです!」
彰紋君がくりっと目を丸くした。
いつもは顔の割に大人っぽい表情をしている事が多いけど、こういう表情をすると、とっても可愛い。
いかだが接岸して、他の人がパラパラといかだから降り始めた。
彰紋君に手を引かれて、いかだを降りる。
先に降りた彰紋君が、私の手を握ったまま、いかだを降りるのを見守ってくれる。
そういう仕草は、ほんとに王子様みたい。
それから、ふたりで代わる代わるポップコーンを食べながらゆっくりと島の高台まで登った。
土色の岩を模した山に登って、二人で黙ってシンデレラ城を眺める。
すごくキレイ。
それに、ディズニーランドに居るのが嘘みたいに静か。
冷たくて強い風も、さっきまで人ごみに揉まれて疲れていた心をすっきりと洗い流してくれる。
こういうのもいいね、と思って隣の彰紋君を見上げたら、彰紋君は頬を染めて小さな声で言った。
「花梨さん・・・キスしてもいいですか?」
えっ?!
私は恥ずかしくて一瞬パニックになったけど、慌ててこくこくと頷いた。
彰紋君がはにかんだ笑みを見せて、私が瞳を閉じるのを待つ。
ポップコーンの容器をぎゅっと抱きしめてドキドキに耐えると、私は顔を上げて瞳を閉じた。
彰紋君の柔らかい唇が、そっと私の唇に触れる。
あ・・・キスってこんなに暖かいんだ・・・
彰紋君の唇が離れると、冷たい空気が急速に唇を冷ましてしまった。
私はそれを感じて、寂しい、と思った。
恥ずかしいけど、もっとして欲しいって、ちょっとだけ思う。
目を開けると、彰紋君は悪戯っぽい顔で首をかしげて、こう言った。
「カレー味。」
彰紋君って・・・やっぱり余裕あるよね。