私は、新宿の改札前に居た。
30分くらい遅れるって電話があったので、少しルミネをブラブラして、さっき戻ってきたところ。
改札の向こうから、たくさん人が出てくる。
その中から、少しだけ飛び出た頼忠さんの頭が見えた。
すごく焦った顔で改札を出ると、キョロキョロと私を探す。
手を振ろうと思ったら、それよりも早く私を見つけて、人ごみをかき分けながら走って来てくれた。
いつも落ち着いている頼忠さんが、必死の形相でまっしぐらに私を目指して来てくれるのは、なんだかちょっとこそばゆい。
「申し訳ありません!」
頼忠さんが、土下座でもしそうな勢いで頭を下げる。
「そんな、いいですよ、お仕事でしょう?」
「はい・・・ですが、貴女を寒い中お待たせするなど・・・」
「お仕事が忙しいのに、イブに会ってくれるだけでも、私は嬉しいですから・・・それに、ルミネをブラブラしてたので寒くなかったです。」
頼忠さんが苦笑した。
「・・・プレゼントは決めていただけましたか?」
頼忠さんは、私が欲しいものをプレゼントしたい、と言って譲らなかった。
だから、これから買いに行く事になっている。
「ごめんなさい、まだ決めてなくて・・・」
言いながら、私は自分が用意してきたプレゼントを取り出した。
初めて編んだマフラー。
ところどころ編み目がばらついてるから、使ってもらえるか心配だけど。
背伸びをして頼忠さんの首にかけようとしたら、頼忠さんが屈んでくれた。
「これは・・・まさか・・・花梨さんが・・・?」
マフラーをまじまじと見て、頼忠さんが呆然とした顔をする。
「不器用だから、上手にできなくて・・・ごめんなさい。」
そう言うと、頼忠さんは、何度も首を振った。
「いいえ・・・いいえ!」
そして、感極まったように言った。
「恋人から手編みのマフラー・・・男の夢です・・・」
・・・そんな大げさな・・・
私が呆れていると、頼忠さんは嬉しそうにマフラーを巻き直して微笑んだ。
「ありがとうございます。いつも貴女は私の欲しいものを下さいます。」
そう言って、私を促すと、近くのデパートへ向かって歩き出した。
デパートに入ると、プレゼントを選ぶカップルや家族でごった返していた。
頼忠さんは、人ごみをぬってどんどん先に行ってしまう。
はぐれそうになったので、私は頼忠さんの手をつかんだ。
頼忠さんが驚いて私を見る。
「あの・・・はぐれちゃいそうだから・・・」
「・・・そうですね。」
頼忠さんが少し赤くなった。
私もつられて赤くなる。
あんなにたくさんキスしてるのに、手を繋ぐだけでこんな風に戸惑うなんて、可笑しいよね。
でも、少しだけ、そういう私たちも好きだと思う。
頼忠さんは、私の手を遠慮がちに握ると、再び歩き出した。
「アクセサリーなどはいかがですか?」
そう言って、恋人達が群がる近くのショーケースに近づく。
私は、キラキラ光るアクセサリーが目に入ったとたんに釘付けになってしまった。
どれも、みんな可愛い。
迷っちゃいます、と言おうとして頼忠さんを見上げたら、頼忠さんは、全然違う方をじっと見ていた。
すごく真剣に見ているから、何を見てるのかと視線の先を追うと、そこには婚約指輪がディスプレイされていた。
私は、まさか、と青くなった。
そりゃあ、嬉しいけど、私、まだ高校生だもん・・・
「あのっ、ネックレスとか、ブレスレットとかがいいかな〜。」
慌ててそう言うと、頼忠さんはこっちを向いて、微笑んだ。
「お好きなものをお選びください。」
・・・ホッ。
私はそれから、なるべく安いのを選んだりしたのだけど、頼忠さんに何度もこう言われた。
「もっと高価なものでなければ私の気が収まりません。」
結局、頼忠さんは、5万円ぐらいするホワイトゴールドのブレスレットで、やっと納得してくれた。
すごく繊細な感じで、私にはもったいないと思う。
でも、毎日つけてるうちに、こういうアクセサリーが似合うようになれば、いつか、頼忠さんとドラマみたいな大人のクリスマスを過ごせるかもね。
会計を終えた頼忠さんが、可愛くラッピングされた箱を、私にくれた。
「ありがとうございます。」
そう言うと、頼忠さんは微笑んで歩き出した。
「お食事はまだですよね?美味しいしゃぶしゃぶをご馳走しますよ。」
「へ?しゃぶしゃぶ?!」
「あ・・・お嫌いですか?」
「い、いえ・・・だって、高いでしょう?」
「そのような事はお気になさらないで下さい。私が知っている美味しい店と言ったら、そのくらいしかありませんので・・・もし、花梨さんに行きたい場所があれば、そちらにしましょう。」
少し申し訳なさそうに頼忠さんが言うので、私は、頼忠さんの手の中に自分の手を滑り込ませながら言った。
「いいえ、美味しいしゃぶしゃぶ、食べてみたいです!」
頼忠さんがホッとした顔で、私の手を握り返す。
私は、頼忠さんに手を引かれてその広い背中を見ながら、思わずにやけてしまった。
クリスマスイブにしゃぶしゃぶだって!
頼忠さん、仕事で行くような場所しか知らないんだ、きっと。
でも、なんか安心しちゃう。
頼忠さんが大人なクリスマスイブを演出しちゃうような男の人だったら、きっと私、早く大人にならなきゃって焦ると思うから。
そう思ったら、なんか私、頼忠さんがますます好きになってしまった・・・
きっと、みんなに話したらヘンな彼氏って笑うだろうけど、私は今、とっても幸せ。