私が駅で柱に寄りかかって待っていると、幸鷹さんが私を見つけて走ってきた。
カバンからプレゼントを取り出す。
初めて編んだマフラー。
ところどころ編み目がばらついてるから、使ってもらえるか心配だけど。
「お待たせしてすみません!」
言いながら駆け寄ってきた幸鷹さんに、私は背伸びをしてマフラーをかけた。
幸鷹さんが目を丸くして、マフラーを見つめる。
「これは・・・貴女が?」
「はい。」
「・・・!」
幸鷹さんは、感激の顔でマフラーを外して、じっくりとそれを眺めた。
「あんまり見ないでください・・・不器用だから・・・」
「いいえ、とてもよくできていますよ。ありがとうございます。」
幸鷹さんは幸せそうなため息をついてマフラーを首に巻くと、ポケットから小さな箱を取り出した。
「こんなに素晴らしいものを頂いた後では、お恥ずかしいのですが・・・」
自嘲的な顔で言って、私に差し出す。
「そんなことないですよ!開けてみてもいいですか?」
そう言って受け取ると、幸鷹さんが微笑んで頷いた。
「どうぞ、開けてみて下さい。」
箱を開けると、シンプルなブレスレットが入っていた。
よく見るとキラキラ光る石が連なっている。
「こ、これ、まさか本物のダイヤモンドですか?」
「はい・・・とは言っても、全て小さな石ですから、そんな顔をなさるような値段ではありませんよ。」
「・・・でも、ダイヤなんて、すごいです・・・」
取り出して、手首につけようとしたのだけれど、見た事がない金具で、うまくはずれない。
幸鷹さんは、私の手からブレスレットを優しく取り上げて、微笑みながら教えてくれた。
「ここを外して・・・ここを押すと外れます。」
「へえ・・・」
私がポカンと見ていたら、幸鷹さんは、私の手首にブレスレットを着けてくれた。
「これは、テニスブレスといって、激しい運動をしても外れないような留め具になっているそうです。売り場の方からそれを聞いてとても気に入りました。活発な貴女にぴったりのアクセサリーだと思ったのですよ。」
「じゃあ、学校に着けて行っても大丈夫ですか?」
「もちろん。校則でアクセサリーが禁止されていないなら。」
私は、思わず吹き出してしまった。
幸鷹さんって、ホント真面目。
幸鷹さんも、つられて笑う。
「気に入っていただけたようで良かったです。」
そう言ってから笑いを収めると、ロータリーの方を見た。
「バスが来ましたね・・・明日がありますから、今日はこれで・・・」
そう言って、少し寂しそうに私を見る。
最初からそういう約束で待ち合わせていたのだけど、私も、寂しい。
せっかくのイブだから、もっと幸鷹さんのそばに居たい。
幸鷹さんは、しばらく私を見つめてから、もう一度ロータリーの方を見て言った。
「帰したくなくなってしまいますから、そんな顔をしないでください・・・」
私は、幸鷹さんの言葉が嬉しくて、もっと帰りたくなくなってしまった。
「帰りたくないです・・・」
そう言って幸鷹さんのコートの袖を引っ張ると、幸鷹さんが息を飲む気配がした。
見上げると、少し赤くなった幸鷹さんが、私から目を逸らす。
「花梨さん・・・あまり我が儘を言うと、私の部屋に強制連行して約束を果たしていただきますよ。」
ディズニーランドで約束した、私からの大人のキス。
幸鷹さんに抱きしめられるのは好きだけど、大人のキスは、まだ恥ずかしい。
まして、私からなんて。
私が慌てて袖から手を離したのを見て、幸鷹さんはぷっと吹き出して言った。
「また明日。」
「はい。明日、いいライブにしましょうね。」
私も、笑って答えると、バス乗り場へ歩き出した。
振り返ると幸鷹さんが微笑んだまま手を振ってくれた。
私も手を振ってまた歩き出した。
・・・戻りたい。
早く帰って明日に備えるよりも。
ちょっと恥ずかしい約束を果たす事になっても。
・・・幸鷹さんのそばに居たい。
バスに乗る前に、もう一度振り返ったら、幸鷹さんはすごく寂しそうな顔をしていた。
私が振り返ったのを見て一瞬遅れて笑顔を作る。
私は、それを見たら居てもたってもいられなくなって、走って幸鷹さんの所へ戻ると、駅前だっていうのに抱きついてしまった。
幸鷹さんが強く私を抱きとめる。
「明日も大事だけど、幸鷹さんも大事です・・・」
私がそう言ったら、なぜか幸鷹さんは困った声を出した。
「私も同じ気持ちですが・・・」
「もう少し、一緒に居たいです。」
「・・・分かりました・・・ただし、強制連行させていただきますよ。」
幸鷹さんは少し怒った声でそう言うと、私の手を取って歩き出した。

部屋に入るなり、幸鷹さんは靴も脱がずに私を強く抱きしめた。
私はそこで初めて、幸鷹さんが思った以上に寂しい気持ちを我慢してくれていたことに気付いた。
それを解放してしまったのは、他でもない私。
たぶん、幸鷹さんはそれを怒っているのだと思う。
だけど、私はそれでいいと思う。
幸鷹さんの寂しい気持ちを解放できるのは、私だけだから。
明日に備えるなんていう真面目な理由に囚われてしまう幸鷹さんを、もっと解放してあげたいから。
・・・もっと抱きしめて欲しいから。
約束なので、私は決死の覚悟で幸鷹さんに大人のキスをした。
最初、幸鷹さんは大人しく私のキスを受け止めていたのだけど、10秒もしないうちに、息ができないくらい激しいキスを私が受け取るはめになった。




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