「わあ〜!」
先にバイクを降りた私は、歓声を上げて駐車スペースの手すりに駆け寄った。
バイクのエンジンを停めて、勝真さんが歩いてくる足音がする。
この前、勝真さんに拉致られた時は、まだ日が長くて夕方だったけど、今日は、もう真っ暗。
キレイだった夕日の代わりに、一面の夜景が広がっている。
「キレイですね!」
そう言って振り向こうとしたら、私は勝真さんに後ろから抱きすくめられてしまった。
とっさに身構える。
だって、勝真さん、ドサクサにまぎれていろいろエッチなことするんだもん。
でも、頭の上から降ってきた勝真さんの声は、意外に優しかった。
「この前の時も、本当はこれを見せたかったんだ。」
私は、安心して勝真さんに寄りかかる。
「すごくキレイです!」
「だろ?」
勝真さんは、嬉しそうに言って、そのまま黙った。
しばらく黙って夜景を見つめる。
「寒くないか?」
ふいに、勝真さんの心配そうな声がした。
「大丈夫です。勝真さんが温かいから。」
「・・・ん。」
勝真さんは、返事なのか何なのか分からない声を出して、私をぎゅっと抱き寄せた。
「勝真さんは寒くないで・・・あ、そうだ!」
私は勝真さんに向き直ると、バイクを指差して言った。
「荷物とってください!」
勝真さんは拍子抜けしたような顔をしてから、外灯の下に停めてあるバイクに向かって歩き出した。
「お前はムードって言葉を知らないのか?」
ちょっと怒ってるみたい。
「だって・・・勝真さんが寒いかな、と思って・・・」
勝真さんがシートの下から私のカバンを取り出す。
私はカバンの中からプレゼントを取り出した。
初めて編んだマフラー。
ところどころ編み目がばらついてるから、使ってもらえるか心配だけど。
見上げると、勝真さんはマフラーを見て絶句していた。
私は、いつも余裕の勝真さんらしくない反応にちょっと照れてしまったので、冗談めかして言った。
「花梨さまの手編みだぞ、感謝しなさい。」
「やっぱりそうか・・・」
勝真さんはそう言って、しげしげと私の手の上のマフラーを見る。
でも、すぐに、編み目のゆるいところを指さしてニヤニヤと笑った。
「なんで、ここだけ穴がでかいんだ?」
「・・・初めて編んだから、上手くいかなくて・・・」
私が申し訳なくてボソボソと言ったら、勝真さんは驚いたように私を見て、いきなり抱きしめた。
「・・・嬉しい。」
私にはそう聞こえたけど、一瞬だったし、小さい声だったから、よく分からない。
勝真さんは、身体を離して私の手からマフラーを奪うと、さっさと首に巻いてしまった。
「ありがとな、花梨。」
そう言って、ジャンパーのポケットから小さな箱を取り出す。
「俺から。着けて見せてくれないか。」
私は、言われるままに箱を開けて、中から出てきたブレスレットを取り出した。
「可愛い!」
水色のゴムみたいな紐に、錠前と鍵のチャームがついている。
「今年の新作だってさ。」
私が手首に着けると、勝真さんは優しく微笑んで言った。
「似合うぜ。鍵っ子小学生みたいで。」
「もう!すぐ子ども扱いするんだから!」
「子ども扱いなんかしてないぞ。ほら、見てみろ。」
勝真さんは、ブレスレットのチャームをつまむと、私に見せながら言った。
「早くお前とこうなりたいって意味だよ。」
よく見ると、錠前に鍵がささっている。
それは、勝真さんが言った言葉のせいで、とっても卑猥に見えてしまった。
「勝真さんのエッチ!」
私が言いながら勝真さんを見上げると、勝真さんは、いつものニヤニヤ顔じゃなくて、少し悲しそうな顔をしていた。
「なあ、なんで身体だけダメなんだ?・・・お前は色んな初めてをホイホイ俺にくれるじゃないか・・・このマフラーもさ・・・」
「え?!」
私は驚いた。
勝真さんが、そんな風に考えてたなんて、思ってもみなかった。
「・・・だって・・・エッチなこと言って私をからかってるだけだと思ってたから・・・」
勝真さんは、そのまま少し固まって、それから情けない顔になった。
「・・・それは俺の言い方が悪かった・・・だけどな、今まで言ったことは全部本気だからな。俺にはお前にやれる初めてなんてほとんどないけど、本当に好きな女を抱くのだけは初めてなんだ。きっとすごく気持ちいいに決まってる。」
勝真さんの言葉は嬉しいけど、なんか、最後の言葉だけひっかかる。
「それって、勝真さんが気持ちよくなりたいだけじゃ・・・」
「う・・・まあ、な、いや、もちろん、お前も気持ちよくする。」
「でも、痛いって聞いたことが・・・」
「できるだけ痛くないようにする。」
「検査は?」
「した。ビョーキはない。」
「もし、妊娠したら?」
「・・・・・・責任取る。」
「なんか、ヘンな間が・・・」
「う・・・それ以前に、お前を妊娠させるようなヘマはしない。」
「分かりました・・・少し、考えさせてください・・・」
「そうしてくれ。絶対に優しくするから。こんなふうに・・・」
勝真さんは、そう言って、すごく優しくて、長くて、深いキスをくれた。