ありがとう
夕食を終えた花梨が翌日の英語の予習をしていると、携帯電話が短く鳴った。
「千歳かな?」
今日は部活を休んだので、緊急の連絡があれば同じ吹奏楽部の千歳がメールをくれるはずだ。
急に朝練でも決まったのだろうか、と思いながら携帯電話を開く。
受信リストを見ると、差出人は彰紋だった。
『こんばんは、花梨さん。昨日はありがとうございました。
今日は少し寝不足でしたが、昨日あなたにもらった元気で、とても充実した一日になりました。
なんと、文化祭でソロをやることに決まったのです。
うちの吹奏楽部で2年がソロに選ばれるのはとても珍しいので、これは快挙なのですよ。
あなたのお陰です。
aki(^_^)♪』
花梨は驚いて、すぐに返事を返した。
『彰紋君、こんばんは。それと、おめでとう!
私は何もしてないよ〜!(>_<)<褒めすぎだってば!
ソロに選ばれたのだって、彰紋君の実力だよ、絶対!
…ところで、ソロってトランペットだよね?
*∴*ρ('о') *∴* 花梨より』
すぐに携帯が鳴る。
『説明不足でごめんなさい。
その通り、僕は部活でもトランペットです。
実は今日、ソロ選抜のオーディションだったんです。
昨日のあなたと同じような立場だったので、いつの間にかあなたの事を想って演奏していました。
そうしたら、顧問の先生に、珍しく心のこもった演奏だったって褒められて、ソロに決まったんです。
だから、やっぱりあなたのお陰なのですよ。
aki(^_^)♪』
花梨の頬が染まる。
「何て返せばいいか、分かんないよ・・・。」
しばらく、文字を打っては考え、考えては消していた花梨だったが、最終的には努めて冷静なメールを返した。
『ありがとう。どんな形でも私の歌が役に立ったなら嬉しいよ。
実は、私も吹奏楽部でトランペット吹いてるんだ。
今年の春から始めたばかりなので、いろいろ教えてください。m(_ _)m
それと、文化祭はいつ?彰紋君のソロ、見に行きたいな。
*∴*ρ('о') *∴* 花梨より』
彰紋の返事は早い。
『花梨さんも吹奏楽部なんですか?
てっきり合唱部かと思ってました。
今度、練習の合間にでも、トランペットのことをお話しましょう。
文化祭は11月最初の土日です。
そちらの文化祭と同じ日でないと良いのですが。
でも、花梨さんが見に来たら、僕、緊張して失敗しちゃうかも。
aki(^_^)♪』
花梨がくすりと笑って返事を返す。
『彰紋君が緊張して失敗?ありえないよ!(笑)
昨日の練習で見たけど、すごく上手だったもの。
平安高は合唱部がないので、肺活量を増やすためにトランペット始めたの。
あと、うちの文化祭は3日だから大丈夫。
*∴*ρ('о') *∴* 花梨より』
『僕も肺活量を増やすために続けていることがありますので、土曜日にでも、その事をお話しますよ。
aki(^_^)♪』
『教えて教えて!じゃあ、土曜日ね。 *∴*ρ('о') *∴* 花梨より』
『はい。では、また。おやすみなさい。 aki(^_^)♪』
『おやすみ〜♪ *∴*ρ('о') *∴* 花梨より』
花梨は携帯電話を閉じて再びノートに向かったが、しばらくすると顔を上げ、頬杖をついて頬を緩めた。