大好き


「タッちゃん、この式、どうやって証明すればいいの?」
タッちゃんと呼ばれた少年は、立ち上がってパソコンの画面を覗き込む。
「真音ちゃん、まだこの問題を開いて1分も経っていないでしょう?もう少し考えなくちゃダメ。」
真音と呼ばれた少女は、画面右下に表示されているストップウオッチを慌てて隠す。
今さら隠しても、と少年は思わず吹き出しそうになったが、顔を引き締めて少女を睨む。
「隠してもダメ。もう来年は3年生になるんだから。平安高に入りたいんじゃないの?」
その時、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ。」
少年が答えると、扉が開いて、お盆を持った中年女性が顔を出した。
「鷹士、真音ちゃん、がんばってる?」
「あっ、おばちゃんの手作りおやつ!やったあ!」
真音が嬉しそうに声を上げて、パソコンデスクから立ち上がると、さっさと床にあるミニテーブルの前に座る。
置いていかれた形になった鷹士という少年は、眼鏡の位置を直しながらため息をついた。
「母さん、勉強の邪魔をしないで。」
「はいはい、すぐ出て行くから。」
鷹士の母親はお盆をミニテーブルに置くと、真音に手を振って出て行った。
鷹士もミニテーブルの前に座ると、さっそくパウンドケーキを頬張っている真音に苦笑しながら紅茶を一口飲む。
「おいしい〜!タッちゃんも食べなよ。」
「うん。でも、真音ちゃんが食べたかったら、全部食べていいよ。」
「ええっ?!いいの?!タッちゃん大好き!」
「わっ、こぼれる!」
鷹士は、飛びつこうとした真音の肩を慌てて片手で押さえると、紅茶のカップをソーサーに戻す。
「もう・・・大好きはまた今度でいいから、食べちゃいなさい。」
「なんで〜?今したいのに・・・」
ブーたれながら2つ目のパウンドケーキを食べ始めた真音を横目で見てから、鷹士は頬を染めて再び紅茶を飲む。
先日、真音に『大好きと大人のチュー』をされているところを、母親に見られた。
翌日の夜、珍しく父親が部屋に来て、既に保健体育で習った事+αを真面目に語ってから、こう言った。
『分かっているとは思いますが、真音さんはまだ中学生です。貴方ぐらいの年頃にとっては辛いだろうと容易に察する事ができますが・・・彼女がもう少し大人になるまで我慢しなさい。くれぐれも、真音さんが嫌がるような事を、強要してはいけませんよ。』
父親は笑顔だったが、眼鏡の奥の瞳は笑っていなかった。
昔好きだった人に似ているとかで、父親は真音を我が子のように可愛がっているのだ。
食べ終わった真音が立ち上がってパソコンデスクに座る。
鷹士もそれを見届けると、携帯パソコンで日本史のオンライン参考書を開いて、紅茶を飲みながら読み始めた。
真音がハア、とため息をつく。
ちらりと鷹士を振り返ったりしているが、鷹士は知らぬふりで参考書を読んでいた。
真音がもう一度振り返ってじっと鷹士を見つめている。
鷹士は、どぎまぎして文章を追えていないのだが、とりあえず、タッチペンで操作して次のページへ移動する。
真音がおもむろに立ち上がった。
「やっぱり、大好きしたい・・・」
鷹士が驚いて顔を上げると、真音が鷹士の隣に座った。
頬を染めた可愛い真音に見つめられて鷹士はしどろもどろになる。
「な・・・あの・・・まおんちゃ・・・」
「ダメ?だって勉強してるタッちゃん、カッコイイんだもん・・・」
そう言うと、真音は鷹士にすり寄ってきた。
真音は物心ついた頃からこんな調子だ。
幼稚園の頃からしているキスも、本来なら鷹士が奪う側のはずなのだが、どちらかというと奪われっぱなしだ。
鷹士も真音のことが好きだし、触れられるのは男としてとても嬉しい。
むしろ、キスを奪う側になってみたいと思う時もあるのだが、どうしても恥ずかしさが先に立ってしまう。
特に身体が反応してしまうようになってからは、真音からキスされるだけでも全身が火照ってしまって身が持たないのだ。
その上、最近の真音は、大人のキスを試したがるようになってしまった。
あれは苦手だ。
真音を壊してしまいそうな欲求が猛烈に自分の中に沸き上がって、怖くなる。
「ねえ・・・」
真音が鷹士の腕に抱きつく。
最近になって急激に膨らんできている胸が腕に当たり、鷹士の心臓が跳ね上がった。
「ちょ・・・ちょっとまっ・・・胸が・・・」
「・・・?」
頬を染めて逃げようとする鷹士の言葉に、真音がキョトンとして胸に視線を落としてから、ニヤリとして顔を上げる。
「真音の胸・・・おっきくなったでしょ?」
そう言うと、鷹士の手をつかんで自分の胸を触らせる。
鷹士は乱暴に真音の手を振り解くと、背中を向けて携帯パソコンに視線を落とす。
その背中に抱きついて、真音が囁いた。
「真音、知ってるよ・・・男の子って女の子の胸、触りたいんだよね?」
「・・・・・・」
鷹士は黙って参考書の文章を目で追う。
そうすることで頭を落ち着けようとしても、背中に当たる真音の胸が気になって集中できない。
「ねえ、エッチって、すごく気持ちいいんだって・・・」
鷹士は大きく息を吸って、搾り出すように言う。
「女の子はとても痛いの!」
「でも最初だけなんでしょ?注射みたいにすぐ終わるんじゃないの?」
「僕は痛くする側だから知りません!」
「いいよ、痛くしても。タッちゃんなら。」
ビクリと鷹士の身体が震えたのを全身で感じて、真音は再びニヤリと笑う。
「真音ね、タッちゃんになら、何されてもいいの。」
鷹士が何としても自分を落ち着けようと、参考書を声に出して読み上げ始めた。
「国司は律令制のもと地方行政全般を・・・」
「ねえ、タッちゃんは、エッチなことしたい?」
「・・・っ・・・平安中期になると徴税請負人の性格を強め・・・」
真っ赤になったまま必死で参考書を音読し続ける鷹士に、真音は諦めてパソコンデスクへ戻る。
鷹士が息をついて口をつぐみ、ズボンの膨らみに気付かれないよう膝を抱えると、真音が悪戯っぽい顔をして振り向いた。
鷹士は慌てて再び音読を始める。
「武士は中央にも進出し、朝廷から検非違使・・・」
読みながら、泣きたい気持ちになる。
・・・父さん、真音ちゃんが嫌がらない場合はどうしたらいいんですか?!
火照った身体の芯は、しばらく鎮まりそうにない。




解説ターイム。
お分かりになりましたでしょうか?
my babyから15年後のお話なのでした〜。
鷹士君は17歳、真音ちゃんは14歳です。
幼なじみといえば、タッちゃんですよね。(笑)
きっと真音ちゃんには勝也くんという弟がいてカッちゃんと呼んで・・・(爆)
3000hitのお話を書いた後、お皿を洗いながら、勝真さんと花梨ちゃんの娘か・・・
などと想像して「なんと恐ろしい!」と戦慄を覚えたのがきっかけのお話です。
外見はお母さん似、中身に少しお父さんの影響を出してみました。
お母さんの奔放で素直な性格に、お父さんの強引さが加わったら最強です。
その上、真音ちゃんは、ラブラブな両親から毎日のようにラブシーンを見せつけられて育ってしまうに違いないのです。
ああ、なんと恐ろしい!(笑)
お父さんは、真音ちゃんが鷹士君に迫っているのを見るたびに、
「なんでそんなとこが俺に似るんだ・・・」
などと情けなさたっぷりに嘆いておいででしょう。
鷹士君の外見は、もし抵抗なければ有川譲くんを当てはめてみて下さいませ。
生真面目なところがお父さんにそっくりですね。
でも、恥ずかしがり方などはお母さんに似ています。
お父さんがほとんど不在のため、口調などもお母さんにかなり影響されてるみたいです。
成績優秀のはずですが、どうやら文系のようですね。
25年後の環境設定は、なかなか難しかったです。
レーザー手術が簡単になって、眼鏡はなくなるかもなあ、と思ったけど、それはメガネ萌えのココロが許しませんでした。
携帯パソコンは学校から支給されている教科書みたいな位置づけです。
B5程度の大きさで、PDAみたいな感じに使います。
鷹士くんが通っている学区内イチの公立高校は、そのPCを使ったネット授業がいち早く導入されてます。
真音ちゃんがやっているのは、多分、進○ゼミオンライン。
人工知能の赤ペン先生がリアルタイムで添削してくれますよ〜。(笑)
・・・中途半端なSF設定で、すみませぬ。




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