並木道
花梨は急いで南天音大の並木道を歩いていた。
泉水に聞いた話では、4時が音楽教育科の最終公演だという。
アルバイトが終わってすぐに出てきたのだが、ギリギリになってしまった。
並木道を抜けると、ところどころに手作りの露店が設置されている。
美味しそうなソースの匂いが漂ってきたが、花梨は脇目もふらずに6号館を目指していた。
「あ・・・花梨さん!」
露店の中から声をかけられて振り向くと、泉水がにっこりと笑っておたまを持った手を振る。
「これから見に行ってきます!帰りに寄りますね!」
花梨は元気良く言うと、泉水が頷くのを見てから走り出した。
1時間後、花梨は元の場所に戻ってきていた。
露店は5時で終了らしく、学生達がわいわいと騒ぎながら片づけを始めていた。
売れ残っていたお好み焼きを買って、泉水の居た露店まで歩いていくと、制服を着た女子高生が2人、店の前に居た。
「私、バナナチョコ!」
「私はイチゴチョコにして下さい!」
泉水が頷くと、フライパンの上に黄色い液体を敷く。
花梨が看板を見ると、フルート専攻のクレープ屋さん、と書いてあった。
一生懸命に生地を焼く泉水を見て、花梨はドキリとしてしまった。
初めて見る真剣な横顔が、とても男性的だったからだ。
フルートやソプラノサックスを吹く泉水は、気持ち良さそうに目を閉じていることが多い。
その様子は、眠る白雪姫のようだと、花梨はいつも思っていた。
泉水の女性的な美貌と、優しい仕草を見ているだけでうっとりしてしまう。
そして、不思議な安らぎを覚える。
美しい花を眺めている時と同じ気持ちだった。
でも、今の気持ちは違う。
尊敬と・・・切なさ。
泉水はいつも、他人に優しく、自分に厳しい。
そうであるからこそ、必ず要求以上の事をやり遂げる。
それでも、満足することなく、その上を目指す。
泉水の真剣な横顔から、花梨は、優しい笑顔に隠されている泉水のたゆまぬ努力を感じて、尊敬の気持ちを深めていた。
それは、同時に花梨の中で恋心へと変化して積み重なっていく。
生地を2枚焼き終わって隣の女子学生の前に置くと、泉水が顔を上げた。
女子学生が生地にバナナやイチゴを飾りつけ始め、泉水の担当は終わったようだった。
少し離れたところで自分を見つめる花梨を見つけると、泉水がにっこりと微笑む。
とたんに、花梨の心を安らぎが包んだ。
「花梨さん、クレープはいかがですか?よろしければ、奢らせていただきますよ。」
甘いものに目がない花梨は、素直に喜んで店の前に駆け寄る。
「いいんですか?!やったあ!どれにしようかな・・・じゃ、生クリームイチゴにします!」
泉水は笑顔で頷くと、生地を焼き始めた。
女子高生にクレープを渡してお金を受け取った女子学生が、売り上げを計算し始める。
その隣で、別の女子学生がイチゴを取り出した。
「もう終わりの時間なのにすみません。」
花梨が気遣って声をかけると、イチゴを持った女子学生は笑顔で首を振った。
「泉水ちゃんの彼女でしょ?これで最後だし、残り物で悪いけどいっぱいサービスしちゃうよ。」
花梨が頬を染める。
泉水も真っ赤になって顔を上げると、あたふたと菜箸を振り回した。
「せ、先輩、誤解です・・・」
「え?違うの?だって、泉水ちゃんが自分から女の子に声をかけるのなんか、初めて見たよ?・・・あ、ほら、泉水ちゃん、見てないと焦げちゃうよ。」
女子学生が呆れたように言うと、泉水は慌ててフライパンに視線を戻した。
それを見て、女子学生はくすりと笑うと続ける。
「あ〜残念。やっと泉水ちゃんに春が来たと思ったのに・・・うちの専攻で泉水ちゃんのこと男だと思ってる子居ないもんね。」
泉水は、その言葉にしょんぼりとしながら生地を焼き上げると、ご丁寧に女子学生の前に置いてからうなだれた。
「あっ、泉水ちゃんが傷ついてる!」
売り上げを計算していた女子学生までもが顔を上げて泉水をからかう。
「先輩方が男女の別なく仲良くしてくださるのは嬉しいのですが・・・私も一応男ですので・・・」
泉水がため息混じりに言いながら、財布を出して花梨のクレープ代を払った。
笑いを堪えてその様子を見ていた花梨に、はみ出すほどイチゴをのせたクレープを渡しながら女子学生が微笑みかける。
「みんな泉水ちゃんが可愛くてしょうがないの。」
こっそりと花梨に囁くと、ぺろりと舌を出した。
花梨がクスクスと笑いながら受け取る。
後ろでもう一人の女子学生が泉水を見上げて言った。
「じゃあ、泉水ちゃん、男らしい所見せてもらおうか。備品の返却に行って来てくれるかな?」
「は、はい。」
結局は使い走りにさせられているのだが、泉水は真剣な顔になると、ガスボンベからガス管を外し始める。
「泉水さん、私、帰りますね。」
花梨が邪魔をしないようにそう言って歩き出すと、泉水が慌てて振り向いた。
「あ、あの、花梨さん、もしよろしければ・・・片づけが終わるまで待っていてくださいませんか?」
泉水がこんな事を言い出すのは珍しい。
いつもの泉水なら、用件があっても、人を待たせるようなら諦めるだろう。
花梨はキョトンとしたが、すぐに微笑んで頷いた。
「はい!」
「では、並木道のベンチで待っていてくださいませんか。なるべく早く終わらせますので。」
「分かりました。」
花梨の返事を聞くと、泉水は再び真剣な顔でガス管と向き合い始める。
花梨が歩き出すと、後ろの方で、泉水ちゃんが女の子待たせるなんて生意気〜、と女子学生のからかう声が聞こえた。
いつの間にか完全に暗くなっていた。
少し前は6時ごろまで明るかったのに、と思いながら歩いていた花梨は、並木道を見て瞳を輝かせる。
木々に電飾が取り付けられ、クリスマスツリーのように光っていた。
等間隔で並ぶ木々が穏やかな光を放っているのは、とてもロマンチックな情景だ。
花梨は感激しながら近くのベンチへ腰掛けた。
クレープを膝の上に置いて、先にお好み焼きを食べる。
アルバイトで早めのお昼を撮ってから何も食べていない。
お腹がすいていた花梨は、夢中でぺろりと食べて終えてしまった。
続いて周りを見回しながらクレープを齧る。
父兄や高校生、片づけを終えた学生達がまばらに通り過ぎていくのを、花梨は何とはなしに見ていた。
しかし、母親と一緒に文化祭のパンフレットを見ながら歩く女子高生を見て、急に自分が怠けているような気分になった。
昨日、花梨は随心実業高校の文化祭を見に行って、姫乃に再会した。
しかし姫乃は、泉水を利用して南天音大に入ろうとしていたのだという事を知った。
彰紋の説得で、姫乃は考えを改めたようだったが、花梨は姫乃の野心を、自分に足りないものだと感じていた。
南天音大に入りたいのなら、姫乃のようにがむしゃらに努力をするべきではないか、と思う。
もっと隅々まで見学して、南天音大に入る手立てを研究するべきではないか。
見たい催しだけ見て、のこのこ戻ってきてはいけなかったのではないか。
クレープに視線を落として、花梨はじっとそんな事を考えていた。
ふいに泉水の声がした。
「花梨さん・・・どうなさいましたか?」
「あ、泉水さん・・・早かったんですね。」
花梨が顔を上げて無理に微笑む。
その様子を見て、泉水は眉を上げた。
何か言おうとして、一度口をつぐむと、再び口を開く。
「・・・先輩方が、力仕事は終わったから、もう帰って良いと言って下さって・・・」
「いい先輩ですね。」
「はい。私のような者にも優しくして下さいます。」
そう言って花梨の隣に座ると、泉水は微笑んだ。
花梨がクレープを差し出す。
「泉水さんも食べませんか?とっても美味しいです。」
「ありがとうございます・・・ですが、私は昨日から失敗作を何度も食べていますので・・・」
うんざりした顔で首を振る泉水に、花梨は吹き出すと、再びクレープを齧る。
花梨がまたクレープを食べはじめたのを見て、泉水は遠慮がちに切り出した。
「花梨さん・・・何かお悩みではありませんか?」
花梨が目を丸くして泉水を見る。
「どうして分かるんですか?」
「先ほどの花梨さんは、まるで消えてしまいそうでした・・・あの・・・私などがお役に立てるとは思いませんが、お話を聞くことで、少しでも花梨さんのお気が楽になればと思います。」
花梨が泣きそうな顔になって頷くと、口を開いた。
「ありがとうございます・・・実は昨日、姫乃さんに会って・・・姫乃さんって、音大に入るためにすごく努力してるんですね・・・私、そこまでして音大に入ろうなんて思えないから、まだまだ気持ちが弱いのかなって思って・・・そんなんじゃ、夢をつかめないかもって、不安になったんです。」
「そうでしたか・・・」
泉水が俯く花梨の横顔を見つめながら相槌を打つ。
「泉水さんも、何に対しても満足しないでその上を目指そうとするでしょ?すごく強い意志を持っていると思うんです。」
「か、花梨さん・・・私は強くなどありません・・・いつも自分の至らなさに思い悩んでばかりで・・・」
泉水が頬を染めてしどろもどろになると、花梨がふっと泣きそうに笑った。
「そんなことないですよ・・・」
花梨の表情を見て泉水が真顔になる。
今の花梨には、全ての言葉が謙遜に聞こえてしまうのだろう。
少し考えてから、泉水が遠慮がちに話し出した。
「花梨さん・・・私がフルートをはじめたのは、母に勧められたからですし、音大に入ることにしたのも、母が希望したからです。私も、姫乃さんのような強い意志を持って音大に入ったわけではないのですよ・・・」
花梨が顔を上げる。
「私は、母の言うままに中途半端な気持ちでフルートを続けてきました。フルートでプロになるのは難しいという事が分かっていながら、本当に自分のやりたい事は何なのか、考えないまま逃げていたのです。でも・・・花梨さん、私は、あなたの言葉を聞いて、初めて自分の将来について本気で考えました。」
「え?!」
花梨が目を丸くした。
「ご自宅までお送りした時に、私を励ましてくださったでしょう?」
「あ・・・!」
「私は、あれから色々と考えて、本気で作編曲に取り組もうと決めたんです。幸い、南天音大は3年次から入学時と違うコースを選択できます。」
「そ、そんな、フルート、もったいないじゃないですか・・・」
花梨が青くなる。
自分の一言が泉水の人生を180度変えてしまうかもしれないのだ。
「いいえ・・・フルートには以前から限界を感じていました。しかし、作曲や編曲はとても面白く、何と言うか・・・血が騒ぐ感覚がするのです。」
「血?!」
「はい。多分・・・父の血が。子供の頃、夜中にトイレに起きたりすると、寝るのも忘れて楽譜と向き合っている父の姿をよく見ました。指揮者は曲を創る側ではなく、演奏をする側ですが、強弱のバランスやテンポなどを緻密に設定していく仕事です。それはある意味、編曲とも言えます。私も楽譜と向き合って、どんなアレンジにしようか考えていると、夢中になってしまって・・・気がつくと朝になっていたりするのです。」
花梨が眩しそうに泉水の横顔を見上げる。
自分の夢や、楽しい事を見つけた人の話を聞くのは、嬉しいものだ。
それが自分の想い人であれば、なおさら。
「ですから・・・私は、あの時花梨さんに頂いた言葉を、そのまま返します。花梨さんは、花梨さんにしかできないことをしようとしているのでしょう?・・・ですから、姫乃さんのやり方を気にする必要はないと思いますよ。」
花梨が瞳を潤ませて大きく頷く。
「姫乃さんは、姫乃さんにしかできないやり方で、音大を目指しているのです・・・きっと・・・」
泉水が悲しそうな顔になった。
他人に嫌がらせをしてでも、音大に入りたい。
それが姫乃のやり方なのだろう。
泉水の顔を見て、花梨は泉水が姫乃の野心に気付いている事を知った。
「泉水さん・・・姫乃さんは、考えを改めたみたいでした。」
「そうですか・・・実は、母が心配していたのです。彼女が今のまま音大に入ったら、男性教授の餌食になると・・・」
「えじき・・・?」
「女子学生の中には、男性教授と身体の関係を持って、単位や良い就職先を得ようとする方も居るのです。そして、悲しいことですが、教授の中には、それに応じる人も居ます。」
「・・・・・・」
「あ、も、申し訳ありません、このようなお話・・・」
「いえ・・・恵先生は、正しいです。姫乃さん、言ってました。カラダを使ってでも、ステージに立つって。」
「やはりそうでしたか・・・」
「でも、彰紋君が説得してくれたんです。純粋に音楽を楽しめば、きっと結果が出るからって・・・多分、分かってくれたと思います。」
「良かった・・・」
泉水が心底ほっとした顔をしたので、花梨も大きく頷いてクレープを食べ始めた。
それを見て、泉水が気遣うような顔をする。
「そうだ・・・何か温かい飲み物を・・・花梨さん、何がよろしいですか?」
「すみません・・・じゃあ、お茶を・・・」
泉水が微笑んで頷くと立ち上がって近くの自動販売機に歩いていった。
一人になった花梨は、こぼれそうな生クリームと格闘し始める。
先ほどまでまばらに通っていた人影は、二人が話をしている間にずいぶん減っていた。
時々学生のグループが通り過ぎるだけだ。
泉水がお茶の缶を持って戻ってくると、花梨が口の周りにクリームをつけて一生懸命クレープを食べていた。
その様子を見て泉水の胸に暖かな波紋が広がる。
「花梨さん、お口にクリームが・・・」
そう言いながら花梨の横に座ると、指で掬い取る。
花梨はキョトンとしてされるままになっていたが、泉水がその指を舐めたのを見て、真っ赤になった。
泉水も花梨の様子に気付いて頬を染める。
「す、すみません・・・」
言いながら、お茶の缶を開けて差し出した。
「いえ・・・」
花梨はクレープを持ったままそれを受け取ると、一口飲む。
再び花梨がクレープを食べ始めたのを見て、泉水は花梨の手からそっとお茶の缶を取った。
「あ、ありがほうごはいまふ・・・」
花梨が小さくなったクレープをぱくりと咥えたまま上目遣いで泉水を見る。
その顔を見て、泉水はよからぬ事を連想してしまい、かあっと赤くなった。
「い、いえ・・・」
慌てて首を振ると、顔を背けて木々の電飾を見るふりをする。
それを見て、花梨も電飾に視線を移した。
「きれいですね・・・」
「・・・はい・・・」
「そういえば、泉水さん、何か用事があったんじゃないですか?」
花梨の言葉に、泉水は真顔になって頷いた。
「ええ。」
「ごめんなさい、私ばっかり・・・」
「いいえ、もともと先ほどのお話は今日するつもりでしたので。」
「あ、用ってその事だったんですか?」
笑顔で泉水を見上げながら、花梨がクレープの最後の一口を食べる。
泉水からお茶の缶を受け取って、花梨がにこにことそれを飲んでいると、泉水が意を決して切り出した。
「花梨さんには・・・恋人はいらっしゃいますか?」
驚いたせいでお茶が気管に入ってしまい、花梨がむせる。
「も、申し訳ありません・・・唐突でしたね・・・」
泉水が慌てて背中をさする。
「けほっ・・・い、居ませんけど・・・」
花梨がお茶の缶をベンチに置きながら辛うじて返答すると、泉水がほっと息を吐いた。
「そうですか・・・」
再び息を吸うと、振り絞るように言った。
「あの・・・差し出がましいお願いですが・・・私の恋人になってくださいませんか?」
「へ?!」
花梨が目を丸くしてから、言葉の意味を飲み込んで頬を染める。
「花梨さんは、私のような者に勿体無い方であることは重々承知の上です。それに・・・花梨さんに好きな方がいらっしゃる可能性も・・・でも・・・私の人生にはどうしても花梨さんが必要なのです!」
必死に畳み掛ける泉水に、花梨は真っ赤な顔でこくこくと頷いて落ち着くように両手を上げる。
泉水はその手をつかんで、なおも言い募った。
「私に至らないところがあれば、必ず直します!花梨さんのご希望に添えるよう、最大限の努力をいたします!ですから、どうか・・・お願いです・・・」
「も、泉水さん、待って・・・」
花梨が辛うじて声を出す。
「す、すみません・・・ご迷惑ですよね・・・このような・・・」
泉水が悲しそうに視線を逸らす。
花梨は慌てて首を振った。
「違うの・・・驚いちゃって・・・私も泉水さんのこと・・・その・・・好きだから・・・」
だんだん小さくなる花梨の声を聞き漏らさないように耳を傾けていた泉水が泣きそうな顔になる。
「本当ですか?!」
花梨が恥ずかしそうにこくりと頷くと、泉水の瞳から涙がこぼれた。
「信じられません・・・こんな幸せな事が、あって良いのでしょうか・・・」
「そんな・・・泉水さん、大げさだよ・・・」
花梨が照れながら言うと、泉水が真顔で首を振る。
「いいえ・・・花梨さんは私に人生の目標を与えてくださった方です。貴女がこれからもずっと、私のそばに居てくだされば、私は、どんなことがあっても生きていけると思うのです。」
「・・・私も・・・泉水さんとなら、ずっと一緒に生きていけると思います・・・」
花梨の言葉を聞いて、泉水が幸せそうにため息をついた。
木々の電飾に視線を移す。
「私は、一生この光景を忘れません。この光り輝く並木道と・・・」
言いながら花梨の顔に視線を戻すと続ける。
「今日のあなたの事を・・・一生・・・」
花梨がうっとりと泉水を見つめてから、その後ろの電飾を見る。
「こんな素敵な場所を選んでくれて、ありがとうございます、泉水さん。」
「良かった・・・実は、昨年、文化祭を見学に来た際に、この電飾を見て、とても気に入ったのです・・・花梨さんをお待たせするのは気が引けましたが、どうしても、ここで思いを告げたく・・・」
言葉の途中で、泉水が慌てて花梨の手を離すと、涙を拭う。
校舎の方から話し声が近づいてきた。
頬を染めて俯く二人をチラチラと見ながら、学生のグループが通り過ぎる。
花梨がその場を誤魔化すようにお茶を飲むと、泉水が口を開いた。
「本当はもっと一緒に居られたら良いのですが・・・そろそろ帰りましょうか。」
「はい。」
頷いて立ち上がった花梨の手を取って、泉水が歩き出す。
花梨も歩き出しながら、泉水の手のぬくもりにふっと微笑んだ。
「泉水さんの手、暖かくて優しくて、クレープみたいにそっと包んでくれて、大好きです。」
「では、花梨さんの手は生クリームですね。白くて、ふんわりしていて、触れると甘い気持ちになります。」
泉水が悪戯っぽく言うと、花梨がクスッと笑う。
微笑みあいながら手を繋いで歩いていく二人を、並木道の電飾から放たれる柔らかな光が、優しく照らしていた。