my idol
『はい、警視庁少年育成課です。』
「東京地方検察庁特別捜査部の藤原です。」
『お疲れ様です。今、回線を切り替えます・・・』
パソコンの画面に"接続中"と表示されてから、別ウインドウが開いた。
インカムをつけて目を丸くした勝真の顔が表示される。
『幸鷹じゃないか!』
幸鷹は、息を呑んでから嬉しそうに顔を輝かせた。
「お久しぶりです。勝真さん。」
『ああ、本当に久しぶりだな!』
勝真が満面の笑みになる。
「そうですね・・・ご無沙汰してすみません。」
幸鷹が謝ると、勝真が自嘲的な顔をする。
『いや、俺の方こそ忙しくて・・・そうだ、先に用件を聞こう。』
「ええ・・・先日証拠品として押収された白い粉末についてなのですが・・・」
『ああ、知ってる。この間の一斉補導の時に俺が押収した。幻覚作用が出ない粉だろ?』
勝真が眉をひそめる。
「はい。私も分析してみたのですが、水に溶かしても火を点けても幻覚作用を起こす化学物質は検出されません。」
『そうか・・・でも、声かけた時のあいつらの様子はどう見てもクスリやってる風だったし、粉に対する反応もあからさまだからな。』
「反応があからさま・・・ですか?」
『ワルやってたってまだまだガキだからな。俺には"それはクスリです"って顔に書いてあるように見える。』
勝真がニヤリと自信たっぷりの笑みを見せる。
問題の少年には幸鷹も会って粉の事を聞いたのだが、大人顔負けのふてぶてしい態度で、とてもそんな風には見えなかった。
やはりそこは勝真の経験がなせる業なのだろう。
「そうですか・・・」
幸鷹がこめかみを押さえてため息をついたのを見て、勝真が心配そうな顔になった。
『幻覚作用が出ないんじゃ、証拠品にならないんだろ?』
「ええ・・・麻薬取締法が改正された途端にこれでは、先が思いやられます。」
『俺も脱法ドラッグなんて馬鹿げたもんが無くなると喜んでたんだが・・・甘かったな。』
「しかし、この件が不起訴になっては麻薬密売組織の思う壺ですから。」
『そうだな。』
「あの・・・何でもかまいません、彼の所持品の中に、何か不審なものはありませんでしたか?」
『いや、注射器がないか俺も探したんだが、ヘンなもんは持って無かった。ポケットに入ってたのはアメと小銭とライターとタバコ。』
勝真がそう言って申し訳なさそうな顔をした。
「飴と小銭とライターと煙草・・・」
捜査の参考になるとは思えなかったが、幸鷹は一応メモを取ってから続ける。
「・・・ありがとうございました。もう少し考えてみます。」
申し訳なさそうな勝真を気遣って微笑むと、勝真もホッとしたように微笑んだ。
『何か手伝える事があれば何でも言ってくれ。俺も麻薬密売組織が根絶するよう願ってるからな。本当に悪いのはガキじゃない。悪い事を教える大人たちだ。さっきも補導された小学生と話したけどさ、花梨の話を振ったら目をキラキラさせてた。』
「ああ・・・もうその年代が小学生になるのですね・・・」
『ん。早いもんだな。小学生と話す時はよく使わせてもらってるよ。"花梨お姉さん"の知り合いだって言うと、それまでだんまりだったガキも喋るようになる。』
「そうですか・・・花梨さんに伝えておきます。子供達の健全育成に役立っていると知ったら、きっと喜ぶと思いますよ。」
幸鷹が嬉しそうに言うと、勝真が周りの様子を伺ってから小声になった。
『花梨はどうしてる?』
「とても元気にしていますよ。来年の春から娘が幼稚園なので、レコーディングだけ復帰することになっています。」
『あの赤ん坊がもう幼稚園か・・・可愛いだろ?』
「ええ、それはもう・・・目に入れても痛くないというのはこういうことかと・・・」
幸鷹が、デスクに飾られた写真立ての中で微笑む我が子を愛しそうに見つめる。
勝真が吹き出した。
『だろうな。他人の千歳が夢中なんだから、そうとうな可愛さだろ。この間も子供服を買い込んで帰ってきたぞ。』
「お陰さまでよそ行きの服がずいぶん増えました。お出かけの度に花梨さんがどれを着せようか悩んでますよ。」
『ま、取材の礼のつもりもあるんだろうけどな。』
「取材?」
幸鷹がキョトンとする。
それを見て勝真がばつの悪い顔をした。
『あれ、お前知らないのか?・・・まずかったかな・・・いや、たいした取材じゃないから安心してくれ。』
「そうですか・・・?」
心配を口にする前から安心しろと言うのは怪しい。
『さてと・・・あんまり仕事の邪魔しちゃ悪いからな。そのうち会いに行くよ。可愛いっていう子供の顔も見てみたいしな。』
勝真があからさまに回線を切ろうとする。
ますます怪しい。
「はあ・・・いつでもいらして下さい。」
不審そうな顔のまま幸鷹が答えると、勝真が焦った顔になった。
『じ、じゃあな。』
軽く手を上げてそそくさと回線を切る。
・・・怪しい。
回線を切ってインカムを外した幸鷹は、パソコンに向かったまま首を傾げた。
幸鷹が息を切らせて玄関に駆け込むと、ちょうど2階から階段を降りてきた花梨がシーッと唇に人差し指を当てた。
「残念!いま寝たところです。」
「・・・はあっ・・・」
幸鷹は天を仰いでからガックリとドアに身体を預けると、眉間にしわを寄せて荒い息を整える。
「今日は遅かったんですね。パパとオヤスミするまで寝ないってずっと頑張ってたんですよ。」
それを聞いた幸鷹が、ますます痛恨の表情になった。
「本屋で少し手間取ってしまって・・・やはり花梨さんに電話で聞けばよかった・・・」
「本屋?」
「ペンネームが分からなかったのですよ。」
言いながら幸鷹は靴を脱いで玄関から上がり、カバンを持っていない方の手で花梨を抱き寄せる。
幸鷹の言葉の意味が分からずにキョトンとしていた花梨だったが、すぐに嬉々として目を閉じると、唇を幸鷹の方へ突き出した。
幸鷹はそれを見て少し悪戯っぽい顔をすると、閉じられた花梨の唇へ少々強引に舌を差し入れる。
「・・・どうしたんですか?」
いつもの軽いキスだと思っていた花梨が慌てて唇を離し、戸惑いの声を上げる。
幸鷹はそれには答えず、再び花梨に口付けた。
小さな舌を吸い出し、味わう。
ドサ、とカバンが床に落ちる音がして、幸鷹の手が花梨の頭を支えた。
「・・・ん・・・」
キスが、より激しく、深くなり、花梨が気持ち良さそうな声を漏らす。
幸鷹はしばらく花梨の唇を貪ってからやっと唇を離すと、微笑んで言った。
「ただいま帰りました。」
「おはえりなふぁい。」
花梨がとろんとした瞳で幸鷹を見上げながら、舌足らずに答える。
「・・・なるほど・・・」
嬉しそうにクスクスと笑う幸鷹を見て、花梨がはっとする。
「本屋・・・もしかして・・・」
「ええ。」
幸鷹は頷いて花梨から離れると、コートのポケットから文庫本を取り出して見せた。
"アイドル探偵のコンサートツアー殺人事件"と表紙に書かれている。
花梨が恐る恐る幸鷹を見上げた。
「あの・・・分かっちゃいましたか?」
「やはり、私達がモデルなのですね・・・エリート刑事のペンを回す癖で気付きました。」
花梨がしゅんとする。
「黙っててごめんなさい・・・ノロケ話が全部文章になっちゃってたから、恥ずかしくて言い出せなかったんです・・・怒ってますか?」
「いいえ。内緒にしたくなるのも当然です。貴女が私のキスをどんな風に思っているのか手に取るように分かってしまいますからね。明日、続きを買って読んでも良いですか?」
花梨は頬を染めると、リビングに向かいながら言った。
「・・・買わなくても、サイン入りのハードカバーが全巻揃ってますよ。」
2作目はアイドル探偵とエリート刑事の仲も進展するため、キスより先の描写も出てくる。
それを読んだ幸鷹がどういう行動に出るか、火を見るよりも明らかだ。
「ハードカバーを持ち歩いていたら遅くなった時に重くて走れません。今日のようにタッチの差でおやすみのキスに間に合わないのは悔しいですから・・・それに、せっかく私達のことが書いてあるのです、文庫版と両方全巻揃えても良いでしょう?」
幸鷹が言いながらカバンを拾って、リビングに入る花梨の背中を追いかける。
「別にいいですけど・・・千歳には秘密にしてくださいね・・・文庫版はあんまり儲からないし、表紙のセンスが悪いから嫌いだって言ってました。」
「分かりました。」
幸鷹が苦笑した。
勝真の妹とは思えないしっかり者だ。
女性作家の少ない推理小説界で、男性作家を差し置いてベストセラーを出しているだけの事はある。
今日の勝真の慌てぶりも、もしかしたら妹に怒られると思ったからかも知れない。
テーブルの上にカバンを置いて、コートと上着を脱いで椅子にかけると、幸鷹はネクタイを外しながらいそいそと2階へ上がった。
そっと寝室に入り、小さく明かりをつけて、ベッドで眠る娘を覗き込む。
花梨は目許と眉が幸鷹さんに似ていると言って譲らないが、幸鷹から見れば少し眉が太いくらいで、可愛らしい寝顔は花梨そのものだ。
花梨のことは何でも知りたい幸鷹にとって、ひとつだけ叶わない願い、それは花梨の過去を見ることだ。
その、言うなればマニアックな夢を、この愛しい娘が叶えてくれる。
そっと前髪をかき上げて寝顔を飽かず眺めていると、階下でオーブンレンジの電子音がした。
食事が温まったのだろう、幸鷹は静かに寝室を出ると、足早にリビングに戻った。
皿と箸を持った花梨がキッチンから出てくると、戻ってきた幸鷹を見て口を開く。
「今日は鷹音と一緒にコロッケ作ったんです。」
テーブルに置かれた皿の上には、普通の大きさをしたコロッケと、少し歪んだ小さいコロッケがいくつか並んでいる。
「よくコロッケ揚げるの失敗してた頃に、パパが上手な揚げ方を調べてくれたんだよって話したら、鷹音もパパにコロッケ作るって言い出して。」
その中でも一つだけ、ひときわ歪んだコロッケがあった。
真ん中のあたりが不自然にくびれている。
花梨がそれを指差して、幸鷹をからかうように言った。
「パパのメガネコロッケ。」
幸鷹が満面の笑みになってそれを見つめる。
「もう、デレデレしちゃって・・・切れないように揚げるの大変だったんですからね。」
花梨が憮然とした声で言いながらキッチンに戻っていく。
幸鷹は慌てて手で口許を覆った。
だが、愛する妻が娘に妬いているという何とも幸せな状況では、笑いも止まらないというものだ。
花梨はご飯と味噌汁を持って戻ってくると、緩む口許を覆って俯いている幸鷹を見て呆れた顔をした。
「・・・無理しなくていいです。」
「す、すみません・・・いただきます。」
幸鷹は笑みを噛み殺すと、取り皿にソースを出して、メガネコロッケとやらを箸でつまんだ。
ソースにつけようとして、いや、ひと口目はソースをつけずに味わおうか、などと独りで逡巡している。
花梨がコートと上着をハンガーにかけながら、その背中を見て唇を尖らせた。
夫が娘を可愛がってくれるのは有り難いことだが、幸鷹のデレデレぶりには正直妬ける。
それに、少々病的な感じもする。
ふと、中学生の娘におやすみのキスをしようと迫る幸鷹の姿が頭によぎり、花梨は青くなった。
幸鷹さんに限ってそんな、と頭を振り、隣室のクローゼットを開いてネクタイや上着をかける。
コートがやけに重い事に気付いて、ポケットに文庫本が入っていることを思い出した。
文庫本をポケットから出すと、それを見つめる。
本に書いてあるとおり、花梨は幸鷹のキスを洋画のようだと思っている。
濃厚なキスであることはもちろん、ムード作りも上手いからだ。
ある時は情熱的に、ある時は意地悪く、言葉や雰囲気で花梨を蕩けさせてから唇を奪う。
そう。
幸鷹は花梨に触れることに関してのみ、悪どいほどに策略家なのだ。
大きくなった娘にあの手この手でおやすみのキスを迫ってもおかしくない。
「花梨さん、食べ終わったら自分でやりますから、そのままにしておいてください。」
幸鷹がご飯の茶碗と箸を持ったまま振り向く。
花梨が自分のコートと上着を片付けてくれたことに、今ごろ気付いたのだ。
それほどまでにメガネコロッケに夢中になっていたのかと思うと、先ほどの空想が現実味を帯びる。
「もう片付け終わりました・・・」
花梨が憮然として言いながら戻って来たので、幸鷹は目を丸くした。
「・・・すみません。」
コートと上着を片付けなかったことに怒るような妻ではない。
花梨マニアの幸鷹脳が経験則から弾き出した答えは、様子を見る、だった。
花梨の様子を伺いながら黙っていると、花梨はテーブルの上に本を置いて、幸鷹の向かいに腰を下ろした。
頬杖をついて恨めしそうに幸鷹を見つめる。
幸鷹が冷静を装ってコロッケを齧ると、花梨が突然口を開いた。
「鷹音が中学生になってもキスするんですか?」
「・・・はあ?」
幸鷹はポカンと口を開けたが、コロッケが口の中に入っている事に気付いて、慌てて口をつぐむ。
コロッケを咀嚼しながらぶんぶんと首を振ったが、花梨は恨めしそうに幸鷹を見たままだ。
冷静さを取り戻すため、ゆっくりと味噌汁をすすってから口を開く。
「・・・どうしてそう思うのですか?」
「だって・・・幸鷹さん、キスとかエッチのことになると強引だし・・・鷹音のこと大好きだから・・・」
花梨が頬を染めて上目遣いで幸鷹を見る。
こういうところは10年経っても変わらない。
幸鷹は思わず笑みをこぼして言った。
「それは、どちらも貴女を愛しているからですよ。」
「そうですか・・・?」
「はい。」
幸鷹はでき得る限り力強く頷くと、味噌汁を飲み干す。
お代わりをするため立ち上がろうとすると、花梨が立ち上がった。
「私がやります。」
「すみません。」
もう一押し、と判断した幸鷹は、最後のコロッケを箸でつかみながら続けた。
「私は、鷹音の唇を奪うつもりもありませんし、おやすみのキスは鷹音が幼稚園に入ったらやめようと思っています。」
その言葉を聞きながら、花梨は黙ってキッチンに入っていった。
幸鷹は、その背中を見送ってから、鷹音が作ったという歪んだコロッケを見つめた。
もちろん、幼い花梨として鷹音を見ているのだから、唇を奪いたいという気持ちがないと言ったら嘘になる。
だが、鷹音が花梨とは別人で、自分の娘であるという分別ぐらいは、ついているつもりだ。
自分がそうであったように、いつか、誰かが、鷹音を幸せにするために奪っていくのだ。
味噌汁を持って戻ってきた花梨が、そっと幸鷹の前に碗を置く。
幸鷹が顔を上げると、花梨が申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめんなさい、せっかく幸鷹さんが鷹音を可愛がってくれてるのに、現実に引き戻すようなことを言って・・・」
その言葉に、幸鷹は自分が寂しそうな顔をしてしまっていたことに気づく。
「いえ・・・どうやら、私は自分で思っている以上に、鷹音に心を奪われているようですね。」
「・・・ふーん・・・そうですか・・・」
花梨が暗い顔をして、そばにあったお菓子の籠を引き寄せる。
・・・しまった。
幸鷹が眉間にしわを寄せて、小ぶりの歪んだコロッケを口に放り込む。
嘘をつけない自分が、二人の女性を同時に愛してしまっているのだ。
うまく立ち回れるはずもない。
花梨はポテトチップスの袋を開けると、食べながら本をめくり始めた。
「あ〜あ、この頃は良かったなあ、幸鷹さんを独り占めできて・・・こんな事になるなら、もっとたくさん独り占めしとけば良かった。」
「もっと?・・・心も身体も貴女に夢中で自制するのが大変だったというのに・・・」
ここぞとばかりに幸鷹が力説した。
「そ、そんな、大げさですよ・・・」
花梨が勢いを削がれて、ポテトチップを小さく齧る。
「今も、身体は全て貴女が独占している筈ですが。」
幸鷹はそう言うと、味噌汁をすすりながら意味有り気に花梨を見つめた。
花梨が慌てて目を逸らし、ポテトチップスの袋に手を突っ込みながら、頬を染める。
「・・・幸鷹さんのエッチ・・・」
「性欲は愛の証です。」
花梨の憎まれ口を、幸鷹はしれっと受け流した。
「・・・・・・」
口で勝てない花梨は黙って本に視線を落とし、ポテトチップを口に運ぶ。
その様子を見ながら、幸鷹は茶碗に残ったご飯粒を丁寧に拾って食べる。
どうやら花梨の機嫌を元の状態に戻すことに成功したようだ。
ホッとした顔で口を開く。
「そのエリート刑事は少々格好良すぎのような気がしますが、アイドル歌手は好奇心旺盛で可愛らしくて、花梨さんそのものですね。」
花梨がキョトンをして顔を上げる。
「そうですか?私はこんなに無鉄砲じゃないですよ・・・この刑事さんの方が、幸鷹さんそのものだと思いますけど・・・」
「なるほど。それを読むと、貴女から見た私も知ることができるのですね・・・続きがますます楽しみです。」
幸鷹が嬉しそうに微笑みながら味噌汁を飲み干した。
「何が書いてあっても幻滅しないで下さいね。」
花梨が赤くなって言うと、幸鷹が不思議そうな顔をする。
「幻滅するような事が書いてあるのですか?」
「・・・そういうわけじゃないんですけど・・・」
花梨は口ごもりながら半分ほどに減ったポテトチップの袋を閉じると、再びお菓子の籠を探り始める。
「花梨さん、お菓子ばかり食べては、身体に良くありませんよ。」
幸鷹がそう言って、お菓子の籠を取り上げた。
「鷹音と一緒に夕飯だとお腹がすくんです〜。アメだけにしますから、返して下さい〜。」
花梨が子供のように駄々をこねる。
「飴?」
幸鷹が籠を覗き込む。
籠の中に、飴らしいものは見当たらない。
「その箱です。」
花梨が掌ほどの箱を指差す。
「これが飴なのですか?」
幸鷹がそれを取り出すと、花梨が嬉しそうに説明し出した。
「鷹音と一緒に食べたらすごく美味しかったからやみつきになっちゃって・・・このアメを、こっちの3種類の粉につけて食べるんです。味がいろいろ変わって楽しいんですよ。」
「なるほど・・・飴の味と粉の味を口の中で混ぜる事で・・・」
突然、幸鷹がお菓子の籠を持ったまま椅子から立ち上がった。
「そうか・・・飴・・・粉を一緒に食べて・・・胃の中で混ざれば・・・」
籠の中を見つめてぶつぶつと呟き始めた幸鷹を、花梨が目を丸くして見守る。
幸鷹は急に顔を上げると、乱暴に籠をテーブルの上に置いた。
身を乗り出して、いきなり花梨の肩をつかむと勢いよく口付ける。
すぐに唇を離すと、幸鷹は驚く花梨を置いたままカバンを持って身を翻した。
足早にリビングを出て行こうとする背中に、花梨が慌てて声をかける。
「幸鷹さん、キャベツも食べ・・・」
幸鷹はドアを開けながら振り返ると、その言葉を遮って興奮気味に言った。
「愛してます!花梨さん!」
返事も聞かずに幸鷹がリビングのドアを閉める。
「・・・もう・・・」
幸鷹は、一度書斎に入ったら朝まで出てこないことも多い。
花梨は呆れながら棒つきの飴を粉につけて口に入れると、残ったキャベツを味噌汁にしようか炒め物にしようか、明日の朝御飯のメニューを考え始めた。
解説ターイム。
幸鷹さんと花梨ちゃんの10年後です。
鷹音ちゃんは、タカネと読みます。
勝真さんEDとイロイロリンクさせてみました。
違いを楽しんでいただければ幸いです。
コロッケについて少しだけ補足。
勝真さんは、花梨ちゃんの料理下手さえも可愛いと思っているほどベタ惚れです。
幸鷹さんは、花梨ちゃんが悩んでるのを見たら放っておけないくらいベタ惚れです。
愛のカタチは違っても、ベタ惚れなのに変わりはないのです。(笑)
幻覚作用が出ない粉の件は、けっこう適当に作りました。スミマセン。
理系っぽく事件を解決する幸鷹さんが書いてみたかったのと、脱法ドラッグの規制が
厳しくなるかも、というニュースから、10年後には法改正されてるんじゃないかと。
花梨ちゃんが好きなアメも実在しませんが、そんな類のお菓子は昔からありますよね。
ミルクとチェリーとマスカット♪一緒に噛むとイチゴになーる♪・・・とか、
ねればねるほど色が変わって・・・ウマイ!チャーチャッチャチャー・・・とかね。
幸鷹さんは、もと理系というイメージから、私の中でちょっとマッドな存在です。
彼は、花梨ちゃんとのラブラブ生活を、貴重なデータの蓄積として考えていると思うのです。
それに加えて、幸鷹さんは浮かれバカ度ナンバーワンだと思います。
幸鷹さんがマニアックに浮かれバカってて、花梨ちゃんがイマイチそれについて行けてない点で。
そんな幸鷹さんを、幸せそうな感じに書けたらいいな、と思って書きました。