ショッピング


テストが終わったばかりの日曜日、譲は温室で花に水をやっていた。
「譲くん、お誕生日プレゼント、一緒に買いに行こうよ。」
入って来た望美がはしゃいだ声で言う。
「えっ?俺のですか?」
「うん。」
譲は込み上げる嬉しさを上手く表現できず、どう返事をしたら良いかと考えながら外を見た。
今朝から降っていた雨は小降りになったようだ。
「・・・困ったな・・・もちろん嬉しいですけど・・・俺、申し訳なくて選べないですよ。」
遠慮がちに答えた譲に、望美は頬を膨らませて言った。
「また、そういうことを言う。それで去年は何もあげられなかったんだからね。」
しかし、そんな答えが返ってくるのも予想していたらしく、すぐにくるりと笑顔になって続ける。
「服とかは、どうかな?いつも私の買い物につきあってもらってばかりだし、たまには譲くんの買い物もしようよ。」
確かに、二人のデートは望美の買い物が多い。
望美に選んでもらった服を着るというのも、ちょっと萌える提案だ。
けれど。
「洋服ですか・・・」
譲は時計を見て、申し訳なさそうに続けた。
「・・・少し、時間がかかるかも知れません。それに、俺の服って、金もかかるんですよ。」
望美がキョトンとする。
「えっ、譲くんて、ブランドものしか着ない主義だった?」
譲の服装を注意して見ていれば、そうではないとすぐに分かるのだけれど。
鈍感な望美らしい反応に、譲は苦笑しながら首を振る。
「いえ・・・そういう訳ではないんです・・・」
そう言って少し考えてから、譲は小さく一つ頷いて続けた。
「・・・分かりました。行きましょう。先輩にも知っておいてもらった方が良いかも知れません。服が駄目なら、他のものでも良いですしね。」
「うん。今年はバイトしてるから、高いものでも買ってあげられるよ。ついでに、私の新しい水着も買いたいんだけど、付き合ってもらっていい?」
「・・・ええ。」
頷きながら、譲は望美の水着という言葉を反芻した。
夏が来る。
地獄の夏が来る。
そう、夏の足音は数ヶ月前から既に聞いていた。
水着や日焼け止めのCMで水着姿の女性が出て来る度、知らない内にテレビを凝視している。
通りかかった母親に「まあっ、いやらしいわねっ!」と叱り付けられるほどに。
どうやら、考えている事がしっかりと顔に出てしまっているらしい。
ああ、こんな水着を先輩が着たら。
その上、こんな風に先輩の背中の紐が解けてしまったら。
さらに、こんな近くで「水着の跡、ないでしょ」とか言われちゃったら。
嬉しいけど困っちゃう。
昨年の夏は、本当にマジ拷問だった。
望美に誘われて海やプールに行く度、へとへとになって帰って来た。
帰って来てシャワーを浴びるなり、ご飯も食べずにベッドへ倒れこんで満杯の譲鍋を何杯も以下自粛。
今年も、夏が始まる。
せっかく水着購入の場面に立ち会うのだ。
今年はもう少し、色気のない水着にしてもらおう。
そうだ。
ああいう可愛い感じのにしてもらおう。
幼稚園の時に着ていたワンピース型でスカート付きの水着。


望美の前髪が自分の息で揺れたのを見て、譲は慌てて顔を横に向けた。
いつも望美の買い物に付き合って来ているショッピングモールが、ふんわりとピンク色に華やいで見える。
「小さい・・・」
望美がショックを隠せないように呟いて、ホンワカしていた譲は、慌てて頬を引き締めた。
背伸びをして、ほとんど抱きつくかのように譲の肩にシャツを当てていた望美が離れる。
「おかしいな・・・これ、Lなのに・・・」
言いながら、手早くシャツを畳むと、その隣のデザインが違うシャツを出す。
「こういうのは、どうかな?」
少し焦りを浮かべながら、望美は出したシャツを不釣合いな小さな身体に当てて見せた。
「ええ、まあ、着られればデザインは何でも・・・」
譲が曖昧に答えて眼鏡を上げる。
大小の派手な柄が入った、買う前からヨレヨレのシャツ。
あまり譲が好んでは着ないタイプの服だ。
譲のやる気ない返事にもめげず、望美は背伸びしてそのガラシャツを譲の肩に当てる。
いつもだったら自分でやりますとか何とか言って取り上げるのに、譲はされるままだ。
まるで公衆の面前で抱きついて来るような望美の仕草が、いちいち嬉しくて。
望美が近づいたせいで、胸の谷間が容易に覗き込めてしまう。
譲はホンワカのせいで荒くなった鼻息が望美にかからないよう、再びピンク色のショッピングモールを眺めた。
恋人に服を選んでもらうのって、思ったよりすごくイイ。
「・・・・・・」
黙ったままの望美に気付いて横目で様子を見ると、望美はやはりショックを受けたように絶句していた。
思わず苦笑を浮かべる。
しおしお、という表現がぴったりの動作で、望美は譲から離れた。
もしかしたら、以前から譲に着せようとチェックしていたのかも知れない。
二人では初めて来たはずのフロアを迷いもなく突き進んで、真っ直ぐにこの譲的にはハイカラな店に入ったのだから。
けれど。
譲が店内を見回す。
テレビで見かける言うなればジャニーズとかが着ているような、それでいて少し上品めの服が、所狭しと並んでいる。
それらは、どうも細身なデザインが多いようだ。
もともと譲は普通より肩幅が広いので、身長を基準にしたサイズの服は着られないことが多い。
がっかりした様子でガラシャツを畳む望美に、譲はそっと助け舟を出した。
「XLなら、着られると思いますよ。」
もう少し、このホンワカを楽しみたいのだけど、流石に望美が可哀想だ。
だが、望美は陳列棚に畳んだシャツをしまいながら、分かっているというように頷いた。
「それはそうなんだけど・・・」
どうやら不都合があるらしい。
望美は少し考えてから、小さくため息を吐いて、積んであるシャツの一番下に手を入れた。
取り出して、サイズを見る。
「Lまでしかないみたい。」
・・・まあ、そうだろうな・・・
こうなる事は分かっていた。
XLというサイズは、どこへ行っても、全然ないか何枚も売れ残っているかのどちらかなのだ。
散々歩いてやっとXLを探して、その中から妥協に妥協を重ねて買って。
時間がかかる割に、満足のいかない買い物しかできない事が多い。
いつもの事なので、早々に諦めモードに入った譲を放って、望美は陳列棚を片っ端からひっくり返し始めた。
どうやらXLを探し当てる気らしい。
こういう時の望美の根性は、賞賛すべきものがある。
果たして、望美はXLを探し当てた。
軽くミリタリー風味のシャツを、少し不満げながらも広げて見せる。
望美は不満げだが、譲はそういう堅めのデザインの方が好みだ。
「着てみましょうか。」
譲は羽織っているシャツを脱いでノースリーブ姿になると、望美が出したシャツを羽織って見せた。
「ほら、やっぱりカッコ悪い!」
望美が即座に切り捨てる。
愛する彼女にバッサリ言われて、譲はガーンというピアノの低音を聞いた気がした。
いや、服が悪いだけだ、と持ち直して、近くの鏡を見る。
身長に対して大きすぎるシャツの裾が、腿の辺りでだらしなく揺れていた。
「ズボンに裾を入れれば・・・」
こういうパターンも多いので、譲はいつもの乗り切り策を提案してボタンを留め始める。
しかし、望美は再びピーコのように切り捨てた。
「ダメ。これはオーバーシャツなの。ズボンに裾を入れたら変になっちゃう。」
言いながら、望美は譲が留めたボタンを上から外していく。
「あ、そうですか・・・」
望美に脱がされるという幸せに浸るため、譲はあっさりと動作を放棄した。
恋人に服を選んでもらうのって、やっぱりすごくイイ。
腕をダラリと下げたまま何もしない譲なんて滅多に見ないのに、望美はそれにも気付かずせっせと譲のシャツを脱がせる。
抱きつくようにしてシャツを取り去ろうとする、望美の頭が近い。
このまま抱き締めてしまおうか。
一瞬だけなら、きっと誰も気付かない。
「似合うと思ったのになあ・・・」
望美が悲しそうに呟くのが聞こえて、譲は我に返った。
望美にはセーラー服が似合う、と譲が思うのと同じような気持ちが、どうやら望美にもあるらしい。
それがジャニーズ的にハイカラな服だったというのは予想だにしなかったが、望美が譲をアイドル視してくれていると思えば嬉しい。
セーラー服だって、ある意味アイドル視しているようなもので。
望美の胸がデカすぎてセーラー服が着れないという事が分かったら、それはそれで別の意味で非常に萌えるけれど、きっと譲も残念に思うに違いないのだ。
そんな思いをさせてしまったのだとしたら、やはり申し訳ない。
「・・・すみません。」
自分のシャツを羽織りながら、譲はミリタリーシャツを陳列棚に戻す望美に言った。
望美が弾かれたように顔を上げる。
「あ、ううん、譲くんは悪くないよ。私こそ、自分の好みで選んでごめん。あっちの方を見てみようか?」
望美は素早く切り替えて笑顔になると、スポーツテイストの服が並ぶ棚に向かった。
デザインを選ぶ余地はないと悟ったらしく、端からひっくり返してXLを探し始める。
ようやく見つけると、望美は勢い込んで譲に見せた。
「ほら、譲くん、あんまりポロシャツ着ないから、ちょっと着てみたら?」
一生懸命で提案してくれる望美を見て、譲は大きな身体を縮める。
「・・・それが・・・こういう、袖口が詰まっているようなものは・・・」
譲は屈むと、望美の手にあるポロシャツの袖口を太い腕に当てた。
ぎりぎり、入るだろうか。
「・・・入らないの?!」
望美が目を丸くする。
「すみません・・・服を買うのに時間がかかるっていうのは、こういう事なんです。ポロシャツもTシャツも、Lだと肩や腕が浮き出ておかしくなってしまうし、XLだと裾が長くて、その上急に値段が上がることも多いでしょう?俺がノースリーブにYシャツを羽織ってばかりいるのは、それが一番手っ取り早いからなんです。」
説明しながら、譲は身体を更に縮める。
「・・・知らなかった・・・」
望美が呆然とした声で言った。
譲は自分の買い物に望美を付き合わせた事を、今さら後悔する。
望美に、こんな思いをさせてしまうなんて。
自分の体型のことを知ってもらおうとか、亭主関白気取りな事を考えていた自分が嫌になる。
望美は譲の後ろに回り込むと、弓道を続けているせいでなかなか筋肉が落ちない腕から背中にかけてを、ぺたぺたと触りながら続けた。
「・・・私のせいで、譲くん、普通の服が着れなくなっちゃったんだね・・・」
譲がはっとして後ろの望美に向き直る。
「先輩のせいだなんて、そんな事、言わないで下さい。俺が好きでやったことなんですから。」
この一年半、何度も繰り返されてきた、似たような会話。
「うん・・・」
望美が柔らかく笑んで、頷く。
「・・・大丈夫。カッコイイ服が着れなくても、私を守ってくれた譲くんの腕、大好きだよ。」
この一年半で、少しずつ短くなってきた、似たような会話。
ホッとして笑みを浮かべた譲に、望美は明るい声で言った。
「じゃあさ、ズボンなら大丈夫だよね?」
だが、譲はその言葉に再び縮こまった。
「実は・・・」


「本当に、すみません。」
店を出てからも、譲は繰り返し望美に頭を下げていた。
「もう、そんなに謝らないでよ。譲くんの誕生日プレゼントなんだから。」
クスクスと笑う望美の前に回り込んで、譲はズボンの後ろポケットから財布を取り出した。
「先輩、やっぱりウエスト直しの分だけでも払わせてくれませんか。」
「いいの。あれでも予算内だよ。もっとたくさん買ってあげるつもりだったのに、Gパン一本になっちゃったけどね。」
言いながら、望美は前に回り込んだ譲の横をすり抜けると、エスカレーターに乗った。
「セール除外品しか着られないんですから、Gパン一本だって高いですよ・・・」
譲も続いてエスカレーターに乗ると、財布をしまいながら、はあ、とため息を吐く。
「足が長いってことなんだから、いいじゃない?羨ましいよ。」
望美は店を出てからずっと、クスクスと笑っている。
日頃の譲の苦労も知らず、やけに嬉しそうだ。
「それだって、あんなにウエストが余るサイズしか着られないのはおかしいですよ。どこの店へ行ってもああなるってことは、俺の身体が異常だってことなんだと思いますよ。」
「そうかなあ?」
望美は首を傾げて続けた。
「私は譲くんの身体が変だと思ったことはないよ。前から譲くんは背が高くて羨ましいと思ってたし、やっぱり普通より足が長い人が彼氏なのは、嬉しいよ。」
エヘヘ、と照れ笑う望美は、とても可愛らしい。
そんな望美の様子に助けられて、譲は思ったことをそのまま口に出した。
「けれど・・・こんな時ぐらいしか、あなたの笑顔を正面から見られないでしょう?」
エスカレーターの段差のせいで目の前にある望美の顔を見つめると、望美がみるみる頬を染める。
矢が的中した時のような痛快な手応えを感じて、譲は後ろを振り返った。
誰も居ない。
キスをしようと顔を近づけると、望美はギョッとして前を向いてしまった。
「こっ・・・こんな所で、ダメ!」
照れまくっている。
譲も気恥ずかしくなって、横を向く。
だが、内心は小躍りしたい気分だ。
グッジョブ、俺。
あんな素直な台詞で、イイ雰囲気に持ち込めちゃうなんて。
今度は誰も居ない場所で言ってみよう。
早くも次のデートをシュミレーションしながら、何気なく到着階のフロアに目をやる。
水着楽園という文字が見えて、譲は目を疑った。
そんな冗談みたいな店名。
望美に続いてエスカレーターを降りると、そこは本当に楽園のように女性ものの水着だらけだった。
しかも、ワンピース型の水着なんて、ほとんど見当たらない。
水着っていうかほとんど下着じゃんコレってツッコミたくなるようなものばかりだ。
「よしっ!」
何故か望美が気合いを入れて楽園に入っていく。
譲はそのまま付いて行って良いのかどうか分からず、その場で立ち止まった。
とりあえず、自分の存在が完璧に場違いなのだけは分かる。
望美が下着の店の前で挙動不審になる時みたいに、缶コーヒーでも飲んで待ってます、とか言って席を外すべきではないのか。
「譲くーん、早くー。」
・・・ええっ?
暢気な声で呼ばれて、譲は心の中で素っ頓狂な声を上げた。
どうやら譲も楽園に入ることを許されているらしいけれど。
母親に「いやらしいわねっ!」と言われる顔にならないよう、なるべく水着を見ずに望美の許へ向かう。
「あの、俺、コーヒー・・・」
逃げようとする譲の言葉を遮って、望美は水着を物色しながら無邪気な声を上げた。
「譲くんは、どんなのがいい?」
・・・ええっ?
譲が再び声を上げる。
選べと。
下着の中から水着を選べと。
・・・それはムリです、先輩!
軽くパニックになっている譲に追い討ちをかけるように、望美は上目遣いで譲を見上げて言った。
「今年は去年よりエグい水着にしようか?」
「エエエエエグいの意味が分かりません!」
怨霊に混乱の術をかけられたような頭のまま、譲は叩き落すように言う。
「絶対分かってるよね、その反応・・・」
むう、と唸ると、望美は譲の手を引いて店内をつかつかと歩き回り、展示されている水着の前で止まった。
水着を見ないように引きずり回されていた譲もつられてそれを見上げる。
マネキンが着ているのは、和式幽霊が頭につけている三角で構成されているような水着。
むしろ下着より表面積が小さいのではなかろうか。
「ニットみたいで可愛いかも・・・」
呟くと、望美はマネキンの下に並んでいる水着の中から、サイズを確認して選び取った。
譲の額に冷や汗が浮かぶ。
そんなエグいのを着た望美と海に行ったりしたら、今年こそ絶対プッツン切れてしまう。
「お、俺は、そういうのは先輩に合わないと思います!」
自己主張した事など殆どない譲にキッパリとそんな事を言われて、望美は憮然とした顔をした。
「着てみなきゃ分からないじゃない。」
言って、やはり譲の手を引きスタスタと試着室に入っていく。
あああ、と心で目の幅涙を流す譲を試着室の前に置いて、望美はバタンと乱暴にドアを閉じた。
譲はソワソワと、そこから逃げ出す方法を考えあぐねる。
でも、もちろん、見てみたい。
むしろ、今このドアの向こうで望美が全裸になっているのかと思うと。
どうにかこのドアの向こうを覗いてしまえないかという考えが脳の半分を支配し始めて。
ほら、今ここで地震があったりしてそうしたら先輩を助けに飛び込まないと。
「うっわ。」
試着室の中から感嘆と嫌悪の混じったような呟きが聞こえた。
何。
気になる。
何がどう「うっわ。」なのか、すっごい気になる。
ああ、やっぱり見たい。
ギイ、と試着室の扉が開いて、幽霊三角を装着した望美が恥ずかしそうに現れた。
「どうかな?」
頬を染め、手を後ろで組んでモジモジしながら目を伏せる。
なんていうかもう、土下座して平伏して号泣しながら謝り倒したいくらい眩しい。
だってほとんど裸同然。
エグest。
エロ可愛est。
最上級に「うっわ。」だ。
譲は慌てて携帯電話を開くと言った。
「おかず・・・いや、選ぶ時の参考にするんで写真を撮ってもいいですか?!」


解像度が高い機種に機種変しといて良かった、と譲はホクホクしていた。
休日のレジャーから帰る客で混んだ下り電車の中、望美も譲も手ぶらだった。
「あーあ、新しい水着、買いたかったのになあ。」
望美は吊り革につかまって窓の外を見ながら、心底悔しそうだ。
「昨年のがあるのに、勿体無いじゃないですか。」
「うーん・・・」
望美は可愛らしく唸ったまま、黙って外を見つめている。
結局譲は、何枚も写真だけ撮っといて頑なに三角水着の新規購入を拒んだ。
他の男の目がある場所で、望美がそれを着ると思うだけでムカムカする。
嫌だ。
望美のあんな最高にエロ可愛い姿、絶対に絶対にぜーーーったいに、誰にも見せたくない。
他にも数枚の水着を試着して、しっかりそれも写真に収めたのだけれど。
見慣れたせいか、昨年の水着のがまだエロくないような気がして。
譲は頑固に昨年の水着を推した。
そうなった譲がテコでも動かないのをよく知っている望美は、不満な顔をしながらも、渋々楽園を後にした。
「譲くん、私って、ああいう水着が似合わない?」
望美がふいに、窓の外を見つめたまま言った。
「いえ、似合う似合わない以前の問題なんですよ。」
譲も窓の外を見ながら、何の気なしに答える。
雨が上がったというのに、灰色の雲は空を覆ったままだ。
「そっ・・・か・・・」
小さく途切れながら答えた望美の声に浮かぶものを譲は読み取れないまま、今年の梅雨明けはいつ頃だろうか、などと考えていた。




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