夢の進路調査


新学期。
譲と望美はいつものように桜舞う中を学校へと歩いていた。
望美がポツリと呟く。
「そろそろ進路を決めないといけないんだよね・・・」
「あ、春の進路調査ですか?」
「うん。」
「3年生は適当に書いて出すわけにいかないですからね。」
「そうなの。でね、迷ってるの。」
「いくつか絞れているんですか?」
「うん。推薦でテニスを続けるか、医療系か。」
譲もそうだが、望美も、あの戦いの日々で、普通の高校生以上の腕力と瞬発力を身につけていた。
その能力を買ってくれる大学は、いくつかあるだろう。
だが、譲が初耳なのは。
「医療系・・・ですか?」
望美があたりをうかがってから、小声で言う。
「うん・・・やっぱり、たくさんの人を殺したわけだし・・・今度は命を助けたいの。」
聞き漏らさないように耳を傾けていた譲がはっとする。
確かに、あの戦では、罪もない人をたくさん殺した。
遠距離型の譲でも、自分の射た矢に苦しんで死んでいった武士を思い出すと、胃の中が苦くなる。
剣で直接人を斬ってきた望美は、なおさらだろう。
だが望美は、その事実と向き合い、前向きな答えを導き出したのだ。
・・・素敵すぎる!
譲は望美に惚れ直していた。
「まあ、私の場合は成績と相談すると、看護学校かな。」
それを聞いた譲が固まる。
・・・看護・・・看護婦さん?!
譲の脳内で看護婦の格好をした望美がパチンとウインクする。
・・・ご奉仕されたい!
男なら一度は夢見る、看護婦さんのエッチなご奉仕。
譲は興奮気味に望美の肩をつかむと言った。
「先輩、すっごくイイと思います!」
「そ、そう?」
望美が目を丸くする。
譲は頬を染めて嬉しそうに歩き出しながら、ブツブツと呟く。
「・・・イイな・・・すごく似合う・・・」
・・・先輩の可愛いナース姿・・・
譲の脳内で看護婦の望美が聴診器を当てるため譲のパジャマのボタンを外していく。
・・・そして我慢できなくなった俺は先輩にエッチなお注射を・・・
「譲くんがそんなに喜んでくれるなら、看護学校に決めようかな?」
そう言った望美の言葉など全く耳に入っていない譲が、急に振り向くと言った。
「あの!注射とか診察の練習する時は、ぜひ俺を使ってください!」
「え?でも注射とか痛くしちゃうかもよ?」
「いいです!本望です!多分俺も初めてのお注射は痛くすると思います!」
「ありがと・・・譲くんって優しいね・・・」


後日、譲が提出した進路調査用紙には有名大学医学部の名前が並び、周囲を驚かせた。
1年の春には文系の私立大学を(望美は唯一国語が得意なので)適当に書いていた譲の変貌に、進路指導の教諭は首を傾げた。
譲の両親は、望美の進路を聞いて、大いに納得した。
と言うより、勝手にしろという気分になった。
だが、深夜のナースステーションで当直看護婦と研修医が交わるという妄想が譲を突き動かしているとは、誰も思わなかった。




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