昼顔 「和やかさ・絆」
「将臣くんは青、譲くんは白にしたからね!」
望美が小さな紙袋に手を突っ込んで、ガサゴソと中を探る。
「なんだぁ?また譲といっぺんに同じ物かよ。」
ぼやく兄を、望美は笑顔でかわして。
「だって、別の日に別の物あげたら隠しごとみたいで、嫌なんだもん。」
言いながら、望美は紙袋から何か小さな物を取り出した。
「はい!二人とも、お誕生日おめでとう!」
満面の笑みで放り投げるのは、二つの小さな玉。
青い玉は、将臣の耳に。
白い玉は、不思議と心地良い温かさで、自分の首筋に吸い込まれ。
・・・これは?
尋ねようとすると、望美は見慣れた本棚に変わっていた。
たっぷり三秒、本棚を見つめて、それから夢だったのだと悟って。
のそのそとベッドから身体を起こして、カーテンを開ける。
隣家の生け垣に昼顔が咲いているのを認めて、時計を見れば、10時を過ぎていた。
実家に居た頃は、家族が立てる物音や料理の匂いで目が覚めたものだったが、独り暮らしを始めてからは寝過ごすことが多くなった。
この春から独り暮らしをして通っているのは忙しいと聞いた薬学部だが、思ったほどの過密さはない。
木曜日の授業は昼過ぎの三限からなので、水曜の夜は閉店までアルバイトをすることにしている。
昨夜は疲れて帰ってきてから、望美と携帯電話で少し話して。
誕生日プレゼントは何が良いかと聞かれたのだ。
考えておきます、と答えて、生真面目に何にしようか考えながら眠りについたせいだろうか。
・・・変な夢だったな。
将臣を夢に見るのも、久しぶりだ。
異世界に行く前は、いつもあんな風に、二人いっぺんの誕生祝いを望美からもらったものだった。
譲は十日ほど遅れて、将臣は十日ほど早い、ちょうど中間の頃を選んで。
二人いっぺんであることをぼやく将臣に、望美はいつも、あんな風に返して。
その様子を横で見ながら、譲はいつも、心底ほっとしていた。
望美が自分の誕生日を忘れていなかったこと。
望美が将臣だけに何か愛情のこもったものをプレゼントしている様子がないこと。
そうやって望美の心が何とか自分にも繋ぎ止められていることを消極的に確認して、安堵する。
十日遅れの誕生日プレゼントにはいつも、そんな思いが共にあった。
今になって思えば、無邪気に思えた望美のその一括誕生日には、それとない意味があったようだ。
ぽつりぽつりと望美から聞く、当時の心境。
望美は恋愛感情だと思っていないようだけれど、自分達を男として意識していたのは確かで。
そう、言葉にしてしまえば、「二人とも好き」に近い感情を持っていたようなのだ。
だから、選べないから、二人と平等に接することに固執して。
どちらの誕生日でもない中間の日に、二人の目の前で、同じ物を。
よく考えてみれば、変な誤解や争いが起きない、最高の方法だ。
自分はすっかり望美の手に乗せられて、望美の思惑通り胸を撫で下ろしたりしていたことになる。
・・・兄さんは、分かっていたのかな。
毎回ぼやいていた将臣は、どういう意味で、自分と一括であることに不満を唱えていたのだろう。
もう尋ねることも、できないけれど。
譲はもう一度、ベッドに倒れ込んで、目を閉じて。
それから、急に身体を起こして、しばらく考えて。
突然ベッドから降りると、忙しなく着替え始めた。